第13話 ファム・ファタール 8


 「あっれー。

喜んでいただけると思いましたのに。

パラシュートは映画“史上最大の作戦”に出てきたマッシュルーム型じゃなくて四角いエアスポーツ用のラムエアータイプです。

取り回しが楽でコンパクトですからね。

資材課から役員権限でくすねてきました。

メンテもお任せください」

「あのー、パラシュート降下なんて、僕、やったことないんですけど」

「わたしはアメリカで父に付き合ってインストラクターの方と一度。

もちろん単独降下の経験はありません。

あの時の空はマドカに連れて行ってもらう空とは空が違いました。

ただ恐ろしかっただけで『もう二度とごめん』って思いました。

・・・というかこの局面で落下傘がでてくることに驚きです」

「さ、さすがルーさん。

女子高生でスカイダイビングの経験があることにビックリです」

先輩が降下体験者だとは驚きだが初飛行の時の惨状を思えば、その時の恐怖を引きずっているのかなとも思った。

ある意味ゲロゲロの理由に納得だ。

三島さんは驚くポイントが違うだろと思うが、彼女の視点のずれ具合が僕の現実感にとっては幸いした。

 「何れ機会を見て弊社のお教室で降下訓練をしていただきたいと思います。

けれども、正直これは決して使うことのない掛け捨て保険とお考え下さい。

これを本気で使うのはかなりまずい事態ですよ?

開傘が市街地や河川、湖沼や荒れた海上なら、歴戦の空挺隊員だって無事じゃすまないかもです

これはあくまで墜落死の確率を百パーセントから数十パーセントに下げるための緊急手段にすぎません。

基本操作は離陸前に必ず復唱する習慣をつけてもらいます。

それでも飛行訓練は、戦闘機では無くて旅客機のつもりで行って下さいね」

「原則緊急脱出を考えるなと?」

「そうです。

お聞きした限りからの推測ですけど、まどかさんとルーシーさんの能力なら、緊急時に選択できるより安全なランディングを見つけられるはずです。

その上で、パラシュートを装備することの安心感をご理解いただければ、任務からの生還はより確実になります」

「あのう、任務って・・・。

マドカ君もルーさんも。

もちろんわたくしも。

どこかに出撃するつもりも予定もないですよ?

・・・多分」

三島さんが手を上げて、丸く口を開いて発言する。

僕と先輩はこくこくと頷く。

「その、おさんにんの不安そうなお顔。

笑止。

私たちの中心にはまどかさんが居るんですよ。

私の驚天動地阿鼻叫喚、酸鼻を極めた人生リテイク経験から言わせてもらえばです。

今日明日にでも爆弾を抱えてクレムリンに空襲を仕掛けることに成ったとしてもです。

やっぱり?って思っちゃいますよ」

流石の日米安保条約。

元自衛官の橘佐那子退役二等陸尉がホワイトハウスに空襲を仕掛けると言わなかったのには苦笑する。

だが、先輩と三島さんが真顔で賛同しているのには失望したよ。

 





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