第13話 ファム・ファタール 6


 「そんな情けない顔をしないの。

マドカの能力は多分わたしたちが想像できる以上のものだわ。

恐らくわたしがマドカ以外の殿方との機会に恵まれることは、この先決してないのだと思う。

そこで不貞腐れているユキ。

貴女もとっくに気付いているのでしょ」

三島さんがほっぺたを膨らませたまま近づいてきて僕の手と先輩の手を取り、サークルを作らせた。

「「わたし=わたししたちは女として幸福と言えるのかしら?

マドカと共にあることの幸せは固い結ぼれとなってどうあっても解けそうにない。

何より解こうと言う意志がわたし=わたしたちには全くない」」

 あなた=あなたたちはいったい何を言っているのだろう。

僕にはさっぱりだよ?

「ユキ。

隠し部屋が作れるのね」

「わたくしにだっておふたりの介入できない部分はありますよ?

心に疚しいことは隠せないみたいですけど。

ルーさんが危惧されている通り。

わたくしたちの異性への関心や好意を支配している脳の働きはマドカ君にロックされちゃってます、多分。

マドカ君に手込めにされてからというものわたくしは、カイを追うゲルダかペールギュントを待つソルヴェイグみたいなものですよ?

わたくしはマドカ君以外の男の人への憧れやときめきどころか、恋愛映画や恋愛小説にすら興味がなくなってしまったんですからね。

夢見る乙女のお年頃として考えれば、状況はかなり深刻と言わざるを得ません」

絶句と言うか何と言うか。

言葉を失う呪いの掛かった穴に、首までずぶりとはまり込んでしまった気分の僕がいた。

「日本古来の伝統的少女のカテゴリー内で、恋に恋しながら三十一文字(みそひともじ)の相聞歌を胸に平穏無事な思春期を終えたかった。

そんなわたしたちとしては、由々しき事態と言えるわ。

そこら辺のところユキとふたりで徹底的に洗いなおしてみたわ。

たった今」

「そんな自分が嬉しくって仕方のないルーさんと私がいるだけでした。

それは一瞬で分かっちゃいました」

「ぼ、僕にどうしろと」

「「ただ、そばに居てくださいな。

それだけで、今は良い!」」

ふたりは手も繋がず同じ声同じ表情で、両手の人差し指を真っ直ぐに伸ばし二挺拳銃の形を作って僕に向ける。

僕は計四丁の銃口から放たれたフルメタルジャケット弾の優しい弾着を感じた。

 色々な覚悟が決まるにはどうだろう。

僕には切実な何かが足りないような気がする。

まだ僕には準備ができていない。

そのことは、先輩にも三島さんにも良く分かっていることらしい。

どうやら僕は足りていない切実な何かを自分で見つけて、自らの意思でふたりの軍門に下る必要があるようだ。

『現状の“丸投げ”では全然駄目』と言うことだろう。

 




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