第13話 ファム・ファタール 5
「はっはっはっ・・・・。
それでですね、飛行中の事故から生還する何か良い方法でもありますか?
佐那子さん!」
橘さんの顔がパッと明るくなった。
「こんなこともあろうかと思いまして。
ちょっとお待ちくださいね」
橘さんは自分の部屋にぱたぱたと走り去った。
「・・・わたしたちはどうすれば良いのかしら。
橘さんを巻き込んで、つらい役回りを背負わせてしまって」
橘さんが部屋を出ていくのと同時に先輩はスッと息を抜く。
先輩の面(おもて)は白磁の様に色を失い、瞳の緑が輝きを内に止めて深く沈みこんだ。
「・・・あれですよ。
切り分けたパイの取り分が小さくなるのは業腹です。
だけどマドカ君が橘さんまで手込めにしちゃった以上は仕方ないです。
どうあっても責任は取らなきゃだし。
第三夫人で良いっておっしゃってる訳だし。
わたくしはマドカ君の多頭飼育に慣れようと思います」
「ミ・シ・マー。
おまえさぁ、そうは言うけど笑顔が引きつってるよ。
手込め手込めって毎度嬉しそうに囃し立てるけどさ。
僕としてはとっさに後先何も考えずに行動した結果が、それだよ?
それに言うに事欠いて、多頭飼育ってなんだよ!」
ガキじゃあるまいし三島さんがあっかんべーをしてみせるが、可愛いので良しとする。
「そうね。
冷静になって分析してみれば最初に能力が発動したのは、マドカとわたしの階段事故の時。
ふたり一緒に、まったく同時のことだったわ。
わたしはマドカ以外の殿方から抱きしめられたことはないし抱きしめたこともないわ。
ましてや接吻なんて想像もできない。
けれども何時かそんな機会に・・・恵まれたなら、お相手の殿方に思わぬ能力が発動するかもしれない。
ユキと橘さんは二次、三次伝搬に過ぎないのかも知れないわね」
先輩はこちらをチラ見して、僕の煮え切らなさに小さな矢を放ってくる。
「むぅ。
そんなの分かりませんよ。
わたくしだって他の人に伝染するかどうかなんて試したことないですもん」
「ユキの能力はマドカを挟まないと発現しないことを忘れないで。
だからと言ってユキの能力の方が劣るとか、そんなつまらない事をとやかく言うつもりはないわ。
多分能力に優劣なんかないもの。
けれどもインフルエンサーの一次母体がマドカであることは確かだし、そこにわたしがどう関わってくるかが不安なだけ」
「・・・機会に恵まれたらって・・・」
先輩が射掛けた小さな言葉の鏃に、僕の胸はちくりと痛んだ。
僕はまるで半熟卵の様にどっちつかずだ。
いったい加納円がどう言う奴なのかは自分でもよく分からない。
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