第12話 「失敗したらやり直せば良いと思います」とお姉さんは微笑んだ 9


 凄惨としか表現できない佐那子の体験談が続く。

「二十回から五十回目くらいの間は実はあまりよく覚えていないのです。

自殺してけりをつけようなんて考えたこともあったような気がします。

この辺りが私にとっては修羅場続きだったのかもしれません。

解決策を何も思いつかないのにグルグルと円さんの死とベーゼがループして、私の精神は完全におかしくなっていたと思います。

恐らくタイムリープとリプレイが五十回を超えて暫く経った頃に転機が訪れました。

奇跡の様な偶然が連続して、初めて森要を倒すところまで戦いを持ち込めたのです。

今思えばその時はチートなラッキーが重なったんですね。

同じ状況に持ち込もうと後から何十回もトライしましたが上手くいきませんでしたから」

 「「森要を倒すまで、まどかが死ななかったということですか?」」

 ルーシーと雪美が完全に同期していた。

「初めての事でした。

もっともその時は、雪美さんが119番通報しようとお隣りさんに走った直後、円さんはルーシーさんと一緒に・・・」

「「わたし=わたし達が死んだこともあったのですね」」

佐那子さんはルームミラーに目をやると軽く頷いた。

「ルーシーさんだけ、雪美さんだけ、お二方とも。

色々なバージョンがありました」

「僕が死ぬ。

それだけは確実に繰り返されたと?」

「ええ。

円さんは必ず殺されてしまいました。

だからやり直せたんです。

初めて森要を倒せた回から、何か展望の様なものが見えてきたのでしょう。

私の正気も徐々に戻ったような気がします。

不甲斐ないことに私は自分が受けた教育と訓練の事も、そこに至ってようやく思い出せたんです。

レンジャー課程で、銃を使わない戦闘法や屋内戦闘の方法論と実技に、磨きもかけていたんですよ、実は。

ケタミンとサクシニルコリンの影響でまともに動くことも考えることも出来ませんでした。

けれど一度冷静に物事を判断しようと思い定めれば、軍人として訓練と経験が役に立ちます。

タイムリープに合わせてリプレイと言う全状況の実行反復は行動の整理と単純化にもってこいです。

考えてみれば、最適解へと至る道筋をつけるにはこれ以上の演習はなかった訳です」

「「佐那子さん開き直ったのですね」」

佐那子は少し驚いたように目を見開いた。

「おふたりが回路を組むと洞察力も増すようですね。

今度私も混ぜて下さい。

・・・その感じとても気になります。

おっしゃるとおり、私は開き直ることにしました。

状況を言い換えれば、例え作戦が失敗しても戦訓を手にしたままタイムリープで何度でもやり直せるってことです。

同一戦闘による戦訓をどんどん積み重ねながら試行錯誤と再戦ができる局地戦で、いつかたった一回勝つだけで良いのです。

考えてみればこれは兵隊にとって、現実ではありえない美味し過ぎる戦場です。

私には幸いにも戦う知識と技術がありましたからね。

タイムリープとリプレイを図上演習かオーセンティックウオーゲームみたいなものと割り切れば方針がたちます。

例え友軍が劣勢でもあっちを修正しこっちを再考して作戦を練り直して行けば、いつか必ず勝機をもたらす賽(さい)の目が出ると確信できました。

毎回殺される円さんの事も時々殺されるルーシーさんと雪美さんのことも、図上演習に於ける兵棋(へいぎ)の損失と同じに考えることにしました。

そこからも長かったですよー。

作戦立案の助けになればと、機会があればお三人のプロファイル収集も欠かしませんでした。

攻勢に移る方針を立ててから百八回目の事でした。

あなたたちの秘密、能力のことを知ったのは」

「「そうですか!!」」




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