第11話 綺麗なお姉さんは好きですか? 21

 森要は逮捕されたものの、供述が上手く取れずに警察が困り果てているという。

事情聴取に訪れた刑事が聴取の冒頭、お門違いのボヤキを円にかましてきた。

いったいそれはどうした訳だろう。

ボヤかれた円も『あっしには関りあいのねぇことでござんす』と心の中で首を捻るしかない。

 

 ふたりを守るためとはいえ、円が能力を使って森要に暴力を振るったことは確かだ。

円はそのことについても聞かれると覚悟はしていた。

そもそも円には森要に怪我をさせた力の行使を悔やむ気持ちなどさらさら無い。

そうではあるが、この年になるまで人に殴られることはあっても、円自ら人様に向かって手を上げたことはないのだ。

意外なほどに大きな罪悪感が円を苛んだ。

 円は咄嗟の行動に現れた自分の獣性に怖れを覚えずにはいられない。

羊は自分の中に狼の本性を夢想したりはしないだろう。

羊は狼に狩られることなく、ぼんやり草を食んで居られればそれで満足なのだ。

 事の次第を明らかにできるのなら正当防衛を主張できるだろう。

もとより能力については明かせないしそのつもりもない。

だが健常であっても非力な円が、重傷を負った状態で武装した偉丈夫をノックアウトしたことをどう説明するか

刑事が来るまであれやこれやと言い訳を考えていたチキンな円である。

 だが意外ことに、円が森要に怪我をさせたことについては何も聞かれなかった。

円が森要に殺されかけたことと差し引きしてチャラになったのだろうか。

そうであるならば随分損な取引だと思うが、法治国家ではあり得ないことだと考えを改めた。

 どんな力学が働いたのかは分からない。

大方、ルーシーのバックに控える弁護士事務所が上手いことやってくれたのだろう。

円はそう楽観して、森要に暴力をふるったことからくる罪悪感に蓋をした。

 

 ルーシーも雪美も逮捕後の森要の消息についていっさい触れようとはしない。

それとなく円が話題を振ってみたところ、ふたりから返ってきた答えが警察で懺悔する森要の現在である。

事情聴取に来た刑事の『上手く事情聴取ができない』というボヤキと関連があるに違いない。

 森要はまるで人が変わったように自責の念に苛まれ、終始自分の来し方を嘆き悔いていると言う。

どうやら調書を取る刑事が聞いてもいないのに、自分がこれまでにしでかした不始末を編年体で一人語りしているらしい。

余罪の自白と言うことになるのか。

森要の過去から現在に至る懺悔は、現状、まだルーシーが登場する時代まで辿り着いていないとのことだった。

 

 取り調べ官をうんざりさせている森要の振舞を興味なさげに伝えた後、ふたりは顔を見合わせて表情を消す。

そして完全に同期した口調で円に告げた。

「「そういうこと」」

このふたりの様子を間近にして円はピンときた。

どんな方法を使ったのかまでは分からない。

だがふたりが何らかの形で能力を行使したのは確かだろう。


 

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