第11話 綺麗なお姉さんは好きですか? 11
森要は、旧制中学以来県内で一番の難関とされる名門進学高校に首席で合格した。
その結果、スポーツ刈りのスポコン小僧から一転。
流行りの長髪リア充野郎にメタモルしたのだった。
森要にはスポーツ全般について、自分がおよそ何でも人並み以上にこなせることは分かっていた。
取り立てて運動が好きということもないので、運動部に所属するつもりは、はなからなかった。
しかしながら、森要は天性と言える明るい性格と文武に秀でる卓越したスペックを搭載する少年だった。
おまけに、無自覚な人たらしがアイドルの着ぐるみを着てるとくればどうだろう。
小中の頃と同様ごく自然に、森要の予定調和的カリスマが発動したことは言うまでも無い。
そのことは県内でもえり抜きの高い資質を備えた生徒達に混ざってすら最早必然だった。
入学早々、他薦の大波に乗る形で森要は生徒会役員に祭り上げられ、二年次と三年次には会長職についた。
男子校であったので校内での色恋沙汰こそ勃発しなかった。
だが市内の女子高生で森要を知らない者は、当時の仙台JKコミュニティではもぐりか相当のはぐれ者と言えたろう。
森要はべたな青春学園ドラマなら視聴率が尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。
そんな陳腐な状況すら、思うがまま自在にコントロールできた。
そんなことは最早御約束の領域だった。
高校生活が始まってまだ間もない頃のことだった。
森要は自身の通う男子高校と偏差値的に双璧を成す女子高校で、その知性と美貌を歌われる才媛に一目ぼれされた。
それは学園モブに埋没する凡夫ならば、寿命の何割かは悪魔に持って行かれそうな僥倖とも言える。
中学時代は野球三昧だった森要にとっても、恋愛沙汰は初めての経験だった。
このケースでも野球の時と同様、断りを入れる理由を特に思いつかなかったので、周囲に囃されるまま彼女と付き合ってみることにした。
見よう見まねで男女交際のあれこれを試してみた。
だが、思い描くストーリーから寸分違わず自分の意のままとなる少女には、すぐに飽きてしまったことだった。
学友達からは理想のカップルだと羨望の眼差しで見られてはいた。
それでも、小説や映画に倣った嘘くさい言葉や振舞で、公園デートからシーツの上まで筋書き通りに進行する彼女とのリアルはどうだったろう。
結果として森要にとって彼女との交際は一時の退屈凌ぎ以上の意味を持たなかった。
有体に言ってしまえば森要にとって彼女は、つまらない有象無象の類いの域を出なかった。
皆が褒めそやし憧憬の眼差しを向ける美貌の才媛だとしても、自分を楽しませてくれる恋愛巧者とは限らない。
それは理解した。
であるならば数多いるその他の女性はどうなのだろう。
森要はそう考えた。
森要には各運動部の助っ人要員として、県内各地に度々遠征する機会があった。
そのことは、実験と検証の為に必要な女漁(おんなあさ)りには好都合なことだった。
先の才媛との関係性を踏まえた上で森要の演習と実験は遂行された。
手折れば面白かろうと思われる女学生や若い女性教員を行く先々で見繕っては、肉体的にも心理的にも翻弄し尽くして経過を観察して見た。
森要としては珍しく、演習と実験と称して自分から起こしたアクションではあった。
だがそれでも、誰か一人の女性にのめり込むほどの興味が持続することは絶えてなかった。
例えサンプルが、真善美を絵に描いたかと思える清楚なご令嬢であったとしても、やはり直ぐに飽きが来てどうにも退屈で仕方が無くなるのだった。
森要は人にも物にも執着心を持たず、嫉妬や虚栄心からまろび出る無様な言動を知らなかった。
加えて、憎悪や蔑みに醸成される醜悪な身持ちとも全く無縁だった。
森要と言う少年は、関係を持った女性たちからとことん愛され、彼女達から終(つい)ぞ憎れることも恨まれることも無かった。
森要は共和制ローマに引導を渡した、かのカエサルもかくやと言う程に女にもてたのだ。
その点は天晴れだったと言わざる得まい。
一方で、森要は傍から見ればアイドル並みのモテモテ男子であるのにも関わらず、同性に敵が居なかった。
これまた負の感情に支配されたことのない、森要の見事なまでの私心のなさ故だったろう。
だが、何でもできて誰でも手に入れられる森要の心は、見事なまでに虚ろでからっぽだった。
心を持たぬブリキの木こりが夢に見て、切望して止まなかったのは人がましい真だった。
森要にとって人がましい真は、青年期に足を掛けかけた今の今に至るまで、終ぞ興味も縁も無い未知の領域だと言えよう。
森要はブリキの木こりが苦悩した空虚な心に不満も哀惜も感じない。
人間存在の妙味がそこにある。
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