第11話 綺麗なお姉さんは好きですか? 10
森要は幼い頃からいわゆるできる子だった。
ご町内で神童と持てはやされる子供である。
一昔前なら、お年寄りが生き仏様だと手を合わせて拝んでも、結して不思議ではない程聡い子供だったのだ。
当然、森要はむつきが取れる前から手の掛からない子供でもあった。
歩き始める頃には、幼児に可能な作業ならあらかた器用にこなせるようになっていた。
言葉を覚えるのも早く読み書きの上達は、両親が驚く程の短期間で進捗を遂げた。
文字通り、森要は天才なのだろう。
それもあらゆる意味で。
およそ学習が必要な思考の機能拡張は言うに及ばず、運動能力についてすら、未だに一頭地を抜いている。
森要は幼い頃から、いつでも彼に期待される水準を遥かに凌駕する結果を残してきたのだった。
神童とは言っても近所の同年代の友達とはごく普通に遊ぶことができた。
森要は賢い子供にありがちな、“こまっしゃくれた生意気なガキ”的要素は皆無だった。
異常に聡明であることを除けば、森要は目鼻立ちの愛らしい明るく陽気な坊やだったのだ。
そうした出来過ぎなキャラに加えて森要坊やは全く人見知りもしなかった。
坊やを知る人が十人居れば二十人ファンができるありさまだった。
森要は神童としてばかりでなく御近所のアイドルとしても地域社会に長く君臨した。
森要は知力体力ともに同年代の者よりつねに秀でていた。
ところが、このカリスマキッドはおよそ人から妬まれたり嫉まれたりすることが無い。
ホモサピの本性を考えればそのことはほとんど奇跡に近かったろう。
特別に思いやりが深かったり、親切で面倒見が良いと言う心的性能を、森要の人格が搭載している訳では無い。
それにも関わらず、森要は常に同年代と年少の者達のリーダーであり続けた。
不思議なことに彼の元に集う子供達は性別を問わず、なぜかいつでも多幸感に満ちていた。
仙台は古くから陸奥(みちのく)に覇を唱えた大家の城下町らしく、凛とした佇まいを品良く残す大きな都会である。
森要はそうした静かに栄える北の都で生を受け、若きプリンス然とした立ち居振る舞いで、飄々と世を渡り歩いた。
森要は学校の勉強を面白く感じると言う、これまた人間離れした異能を持っていた。
そのせいか、小学校以来普通の児童生徒なら苦痛を感じるのが当たり前である学習の過程を、それこそゲーム感覚で軽々と消化して行くことができた。
森要は児童生徒に課せられる運動全般においても、そつなく水準以上の成績を残せた。
十把一絡げの凡人にしてみれば真に忌々しいことだが、見事なまでに文武両道を地で行く少年でもあったのだ。
小学生の頃は幼馴染に引き摺られるまま、野球に最も多くの時間を費やすことになった。
投げればピッチャー打てば四番というポジションはまさに、森要の為に用意された特等席みたいなものだった。
特に断る理由も思いつかなかったので、小学校を卒業すると乞われるまま野球部に入った。
そうして森要はスポーツ刈りの汗臭い中学生として思春期の前半を過ごした。
中学生離れをしていると評判のエースで四番の少年は、お約束通り高校進学の際には強豪校からの熱烈な勧誘を受けた。
そのせいで野球部の顧問が一時期休日返上で接待攻勢を掛けられた楽屋話は、後々までの語り草として教員室で長く記憶されたことだった。
事程左様に大人たちは浮足立ったものの、森要本人と言えばどうだったろう。
森要にとって、勉強と同様やればできてしまう野球に、元より人生の一時期を捧げるほどの関心は無い。
森要はいつしか甲子園に辿り着くことを夢見る野球少年にとっては到底理解できない選択をした。
森要はあっさり野球から足を洗い“学校の王子様”としてはある意味王道ともいえる高校生活を送ることになる。
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