Said 姉(有希) 

その日は突然だった。


ただ、いつも通り仕事をこなし、いつも通り帰宅する、そんな日になるはずだったのに。


今日も仕事を終わらせて帰路につく。

ふと妹のこと思い出し久しぶりに10年近く会話のない妹の菜奈ななとの少しだけのLINEを見返す。


思い出すのは幼い頃の記憶。まだ小さい頃はどこにもいる仲良しな姉妹だった、いつでも一緒で、何かするときには必ず一緒に居たような気がする。

私が中学校に上がる頃には妹は小学4年生で、この頃にはもうほとんど会話はなかったと思う。


私は妹のことが大好きだった。もちろんlikeではなくLoveの方だ。

物心ついた頃から一緒にいろんなことをして、そのたびにその明るい笑顔に惹かれていって気づけば恋をしていた。


何よりも大切な妹。だから自分のこの見にくいドロドロを妹に見せたくなくて自分から距離を置いた。

なのにどこかでまた菜奈とあの時みたいに遊べないかそんなことばかり考えてしまう自分が嫌いで、少しでも他のことを考えてたくて勉強ばかりの中学校生活を送っていた。


高校に入ってからは妹と顔を合わせる機会も減って本格的に疎遠になってしまった。

まだ距離を置いてから最初の頃はなんとか遊ぼうと向こうが声をかけてくれたが、私はそれを全て断り続け、等々何も言わなくなった。


ここまでしても妹に対しての恋心は消えず、忘れようと色んな人と付き合ったりもした。性格のいい人、ルックスのいい人、同じ性別の可愛い子。


ただ、どうしても途中で妹のことが頭によぎって最後は(この人じゃない)そう思うようになってしまった。


たった短い、幼少期の間であっても妹と過ごした時間が一番の宝物で、他の人でその穴が埋まることはなかった。

 

そんな醜い恋心を抱えたまま今に至る。 


自分でも少し、バカだなぁーと思いつつも、もう新しい恋は諦めていた。


そんなときだった。


突然電話がかかってきたのは。

電話に出ると妹が車にはねられ、意識不明の重体だと告げられた。


慌ててタクシーを呼び、病院に向かう。少しやけくそ気味に急かすように伝え全速力で向かった。


しかし私が着いた頃にはもう妹は帰らない人になっていた。


後悔しかなかった。


どうせなら私の気持ちを伝えたかった。


もっと早くに伝えたかった。


今更になってそんな気持ちがあふれる。

伝えられても迷惑であろう気持ちでも、こんな突然居なくなるなら、せめて最後に伝えたかった。


大好きだ、愛してると。


みっともなく病院で泣き腫らし、それからどうやって自宅に着いたかはわからない。

親も菜奈のことを聞いて泣いていた。


もう、あの笑顔を見ることはできない。

宝石のように眩しく、輝いていた笑顔を。

あの瞳を見ることはできない

力強く、美しいあのきれいな瞳を。


家についてからも散々泣いた。

涙が出なくなっても、嗚咽がこみ上げ、寝ることができず、次の日は有給を使い、仕事を休んだ。


そして次の日には少し心が楽になり仕事に行けるくらいまで回復した。

それでも、もう菜奈に会えないと思うと今でも心が苦しくなる。


そして3週間くらい経った日だった。ななと出会ったのは。


いつもの帰り道、ふと路地裏を見ると妹そっくりの猫を見つけた。

どこが似ていたのかと聞かれると一番は「目」がそっくりだった。


力強く、それでいて宝石のようにきれいな目。

私が大好きだったあの瞳に。


それを見た瞬間を思わず抱き上げてしまった。 


妹の生まれ変わり、そんなはずないのに、そう思いたくなってしまうほど菜奈にそっくりで、わたしはもうメロメロだった。


そしてななと出会って少し。

性格までそっくりな、ななとの生活はものすごく充実したものだった。

朝起こしに来てくれて、帰るとすぐに駆け寄ってくれて。

それでも夢の中ではどうしても思い出してしまう。


そんな日常が当たり前になり始めた2週間目。

テレビをつけてとある映画を見ていると、あの日の、菜奈のことがフラッシュバックして、ななに情けないところを見せてしまった。


心配そうにこちらを覗くななに、妹のこと話した。

君にそっくりで、私の最初で最後の最愛の人の話を。

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