第9話 元凶

ノア・ルミナリエは元帝国軍中尉……まぁ簡単にいうと結構偉い人である。

そんな彼女が合格発表が終わり向かったのは帝国軍作戦本部、街にずっしりと構えたその建物は左右対称に設計されており帝国の軍事力を象徴する相応しいものだった。


コンコンッ


ルミナリエがドアをノックする。


「入れ」


「相変わらずだねルーカス」


「また貴様か…今度は何のようだ?」


その奥にテーブルを挟み構えて座っていたのはグランの上司にして大佐、ルーカスだった。

面倒くさそうに返事をする彼に対しルミナリエはお構いなく入ってくる。


「グラン君についての報告に来たんだ、流石ルーカスの息子だ、戦闘能力に関しては問題はなかった」


ルミナリエは手前の椅子に数枚の書類を雑に置く。


「あくまで義だ、本当の親子ではない」


「ふーんまぁいい、でどうよ…自分の息子に無理難題ふっかけてクリアされた気分は!」


ルミナリエは煽り口調で言った。

それもそのはず今回の試験自体ルーカスが設定したものである。


「…………当然だ、あいつにはAクラスに行ってもらわねば困る、Fクラスなんて一般生徒ならまだしも帝国軍人としては恥ずかしいにも程がある」


ルーカスはグランのことをよく知っている。

性格から能力、頭脳に至るまで彼は帝国の特殊部隊の隊長としての実力を持つことも。

だからルーカスは許せなかった。

怠惰に溺れ自分の存在価値を引き下げるグランを


「でも今回の試験は流石にやりすぎだ…こっちはすでに位置を把握しているし武器もない、その上にこの俺と戦うことになるなんて、別に自分の存在価値を上げるわけじゃないがこれでも俺は帝国軍の実力トップだったんだぞ」


「ふん、奴がその程度で負けるならそこまでだ首を飛ばしても構わん」


自分には関係ないと一蹴するルーカス。


(親バカなのか、毒親なのかわからんねぇ)


ルミナリエはつくづく思った。


「あ、約束忘れてないだろうな?ルーカス」


「ふん、覚えていたか」


ルーカスは机の上から3番目の引き出しを開けると黒いファイルを取り出す。


「閲覧許可は出ている…国家機密情報だ、くれぐれも外部に漏らすなよ」


「お、サンキュー」


ルミナリエはルーカスから手渡しで黒い厚みのあるファイルを受け取る。

そのファイルの題名は


帝国軍特殊部隊「黎明」通称Second


と書かれていた。


「ちゃんと覚えていたんだな、グランの事をしごく代わりに黎明について教えろって」


「別にお前は腐っても元中尉だ、いつかは教えることになっただろう」


ルミナリエはファイルをワクワクしながら開けた。

するとそこには


隊長  グラン・ゼルリアス   (17)


副隊長 ヴィルヘルム・ハーデス (年齢不明)


 団員 エキドナ (年齢不明)


ミカエラ・ファーザル  (年齢不明)


白夜・夜桜       (102)


セレスティア      (518)



「………こ、これは……」


そのファイルの最初のページには合計6人の名前と年齢が載っていた。

流石のルミナリエでも噂の正体を目の当たりにすると少し気が引けてしまった。

しかし怖気ずに次のページをめくる。

そして更に次、その次とどんどんめくっていった。

そして数十ページめくるとファイルを一旦閉じる。


「……化け物っていう噂は本当だったんだな」


「ふん、気づいたか彼らは比喩や冗談でもない正真正銘の化け物だ」


 「あーまさか………


   グラン以外全員人間じゃないとは」



その場が一瞬静まりかえる。

ルミナリエは確かに見た。

何故これが秘匿されている情報なのかをその理由をしっかりと目に焼き付けた。

当然である。

そのファイルにはそれぞれの生い立ちと軍に来るまでの経緯が書かれていた。


「しっかしまさか、吸血鬼に魔族、魔物に天使それに龍人とはねぇ…こりゃ隠すわけだ」


「……もう一つ見せる物がある」


ルーカスは机からさらにもう1つ赤いファイルを取り出す。


「それは?」


「……黎明の戦闘記録だ」


ルミナリエはそのファイルを手に取ると恐る恐る開く。

そして一枚一枚見入るように見ていく。


「……セルリア戦線…対南国連合軍戦闘記録」


……こ、これは!!


「午前4時戦闘開始……敵軍40万対帝国軍3万…

…午前6時帝国軍後退……特殊部隊黎明の配置準備開始……午前10時連合軍28万対5 午前11時連合軍指揮官暗殺……連合軍撤退を開始…午後13時作戦完了…」


「見たか、これが奴らだ」


当たり前のようにいうルーカスに対してルミナリエは瞳孔の震えが止まらない。


「……たった5人で…戦線を守り切っただと」


「そうだその5人の中にグランも含まれている。セレスティアは参加しなかったようだ…」


「あ、ありえない……」


これが真実だとすると…こいつらが暴走すれば世界が終わる……


震えているルミナリエに対してルーカスは椅子から腰を上げ窓の外を眺める。


「………奴らは化け物だ…そしてそれをまとめる者もまた化け物でなくてはならない」


「……グランの事を言っているのか」


「そうだ、85ページを開け」


ルミナリエは言われるがままにページをめくった。

しかしその道中も見ただけでわかる恐ろしい情報が多く入っていた。


「あった85ページ、えーと対軍用スナイパーライフル609ってこれ!!」


「気づいたか」


ルミナリエはそこに書かれている物の正体を知っていた。

それは帝国が独自に開発した対軍用スナイパーライフル、ひとたび引き金を引けば大砲よりもミサイルよりも強く、速い威力の弾丸が炸裂する。

しかし帝国軍最強であったルミナリエも使いこなせず開発は中止になったはずだった。


「これは特別は魔法を弾丸として発射するのは知っているな?」


「そうだな、俺には使いこなせなかったが」


「これがグランの武器だ、奴は暗殺者とも大砲ともなり得る」


「なんだと!」


ルミナリエは勢いよく立ち上がってしまった。


(こんな小さいガキが609番を使えるだと…)


「なぁ……ルーカスまさかお前」


「………私は自分の息子に殺戮兵器になって欲しくなかった…わかっているここまで育ててきたのはこの私だと…ならせめて学校だけは普通に行かせたい」


それは親としての気持ちなのかただ成人してない子供が戦場に行き人を殺しているのが怖かったからかはわからなかった。

でもルーカスの心の中なら一つだけ確かなものがある…

妻が早死にし子供もいなかったルーカスにとってそれは心の支え



「…グランは私のたった一人の大事な家族だ」


「……………」


ルーカスの声の中にどこか悲しみを感じとったルミナリエ。

しかし彼女はその思いとは逆のことを告げた。


「それは無理だルーカス……お前達帝国軍は対王国戦で黎明を使う気でいるだろ?」

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