第1話 次なる任務

コンコンコンッ


「失礼します、グラン・ゼルリアスです」


「入れ」


部屋の奥から男の声がすると俺はゆっくりドアを開け中に入る。

部屋に入ると洋風な壁紙やシャンデリア、奥には構えるように机が配置されておりそこに俺の目的の人物は座っていた。

俺は机前まで行くとそこで姿勢を正し男が喋り始めるまで待つ。


 「よくきた、まずは前回の任務ご苦労だったと言わせてもらう」


「いえいえもったいなき言葉、感謝しますルーカス大佐」


社交辞令ような挨拶を簡易に済ませる。


「君達の活躍は聞いたよ、まさか魔王軍の3大隊壊滅、幹部の暗殺に成功とはね…」


手元の資料をめくりながら言うルーカス


「全ては部下のおかげです、感謝ならそちらに」


「いやいやそれをまとめる君にこそ皇帝陛下は勲章をあげるべきだと言っておられた。残念なことに君達の存在は秘匿されている、故に授与はできない、悪く思わないでくれ」


ルーカスは平謝りをする。


「いえ、我らが皇帝陛下に忠義を尽くしたまでです。そこに勲章など不要」


「はは相変わらずだな今日はその話なんだが」


ルーカスが俺に一枚の紙を渡す。

その紙にはありとあらゆる俺の経歴が綴られていた。

だが自分のことなんぞ自分が1番理解している。

俺はその経歴を目で流しつつ読む。


「……これがどうかしたんですか?」


「はは、2枚目の資料だ」


俺は1つ目の資料めくる…そこには…


「…帝国立魔法学園の案内…と言いますと?」


カラーリングされた学園の広告が入っていた。

少し厚みがあり中には学園の場内風景などの説明が書いてある。


「はは、まだわからんのか、ゼルリアス隊長お前にはこれまで帝国軍の勝利に貢献してきた、

しかしまともな学校に行ったことないだろう?我々としてもそれを心配している」


「恐縮ですが軍学校を私は卒業してますし…」


俺は7歳で軍学校に入りそこで14歳の卒業まで一般的に小学生から大学生までの授業過程を全てこなしてきた。

だから軍学校以外なんて頭の片隅にも無く、行きたいなんて考えたことはなかった。

学べるのであればどこだって一緒……



「……お前は一般的な学校という物を知っておるか?」


「失礼ですが軍学校はその一般的な物に当てはまらないのでしょうか…」


「……じゃあまずは朝起きて学校に行ったら何をする?」


「そんなの簡単じゃないですか、登校した者からランニング10キロを行います!」


「……その後は」


「シャワーを浴びた後に1時間のテストをし赤点は全てその場で退学、生き残った者で授業を再開そして…」


「よし、よくわかったぞゼルリアス、お前が本当の学校を知らないことを」


「え?」


ルーカスは手を頭に当て顔を横に振る。

何故困った顔をしているか全くわからないんだが……


「よしお前は、帝国立魔法学園に入学し社会常識を学べ!これは任務ではないが一応定時報告は忘れるな!」


「了解!」


俺はそう言う扉の前まで行き退出の言葉と一礼をすると部屋を出ていった。


部屋に残ったルーカスは困った顔で天井を見た


「褒美のつもりだったんだがな……少しはお前に学生という物を味わってもらいたかった」


ルーカスは小さい頃から親のいないグランの面倒見ており親のような存在だった。

そんな自分の子が成長の機会を失うのが悲しいと思い皇帝に掛け合った。

彼は特殊部隊、いわば帝国の戦力のかなめだった。


「ま、任務じゃないのは嘘なんだけど」



特殊部隊「黎明」通称Second 彼女、彼らは全員、世界から逸脱した能力を持ちその存在は秘匿されてきた。

何故ならあまりにも強すぎるが故に世界から危険視されかねないのである。

またそのほとんどが国を滅ぼしかけるほどの力を持つ。

帝国はそれらを保護し軍学校で優秀な成績を収めていたグラン・ゼルリアスという男に一任する。

グランは彼女、彼らが暴走しないように抑える任務を任せた。

部隊として帝国に配属

暴走並びに反乱を起こさないよう防衛のみに活用これが帝国特殊部隊黎明の誕生である。



帝国軍本部前の汽車を使い20分、そこから少し森の中を歩きたどり着いた所に俺の家いや

「黎明」の基地がある。

俺は重い扉を開け中に入る。

そこには広いロビーに中央には大きな階段そしてそれに連なるように部屋が配置されていた。



「………よし誰もいないな!ふぅーー」


俺はこの館に誰もいないことを確認すると大きく息を吸う。

そして……



「嫌だぁぁぁぁぁああぃぁぁぁ!!学校行きたくないいいいいぃぃぃ!!」


これが俺の心の叫びだ!

いやおかしいだろ何が勲章の代わりだ何が皇帝陛下からの贈り物だ!!


「そうですよ!友達なんて碌に一人もいなかったですよ!!あのくそ親父言う通りですよ!でも友達の作り方なんてわからんわ!何自然にできるもんなのなんなの!?」


俺は軍服だということを忘れ転げ回った。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」


俺は頭を抱えて悩む。

どうすれば学園に行かなくて済むか…


「くそっこうなったら試験にわざと落ちていけなかったことにしよう!俺は魔法の才能がないからな!よし我ながら天才!」


俺は服の埃をはらうと学園案内を改めて開く

すると何やら一枚の付箋らしき物がひらりと床に落ちる。


「なんだこれ?」


俺がひろいあげると付箋には


グランへ


私からの贈り物は気に入ってくれたかな?


大丈夫心配するな


私の不思議な力で魔法試験はすでに免除されている


本試験と筆記試験のみ受けてくれたまえ


しっかりと勉学に励むように


期待している


            ルーカス


ps面倒だからといって逃げるなよ



「…………」


なるほどルーカス大佐は俺のことを充分に理解しているようだ。


「クソじじぃががががああああ!!」


俺はありったけの力を込め付箋をびりびりに破いた。


もういい!次からはクソ親父じゃないくてクソジジイって言ってやろ


怖いから心の中で


「ますたー……うるさい……」


階段の上った先を見るとそこにはクマの人形を持った少女が目を擦りながら立っていた。


「ああすまんセレン」


セレンは階段を降り俺に近づいてきた。


「がくえん……?」


「あぁそうだ次の任務が終わったら行くことになった」


本当は行きたくないんだけどな!


「なぁセレン……」


「どうしたのますたー……?」


セレンはキョトンした顔で俺を見つめる。


「バックれていいか?」


「……………いいけど……ますたーがにげるなら…わたしたち…ぐんにしたがうひつようない

……くにこわす……」


「……マジ?」


「……まじ…わたしたちわ…ますたーにしたがってるのであって…くににわしたがわない」


「…………」


  オワタ(^^)


「それに……それ…にんむじゃないの……」


「ん?」


セレンが一枚の紙を拾い上げ俺に渡す。

そこには


「………極秘任務…対象の監視又は排除………

この作戦を知るのは上層部の極一部とグラン・ゼルリアスのみ、他のものには見られないよう……これはまさか……」


セレンがコクンと頷くと俺は大きく息を吸う。

そして


「やっぱり任務じゃねぇぇえかぁああああ!」


俺は大きく叫んだ。

マジであのクソじじい騙しやがって!

クソ野郎!!!




あれ?ちょっとまって

これ、俺以外が知ったらまずいやつのような…


「なぁ、セレン」


「なぁに……ますたー……」


「………………今のとこ忘れてくれないか?」


「………やだ」




「スゥーーー本当にお願いしますぅ!!」


俺は全身全力の土下座をする。

側から見たらこれは幼女相手に土下座をしている変態に見えるだろう。

いや実際その通りなんだが、


「本当にマジで忘れてください!!俺の首が飛びます!!マジで!!」


「……とぶまえにそいつをころす……」


「いやそういう問題じゃなくて!!マジでなんでも言うこと聞くから!!」


「………ほんとうに?」


「本当に!!」


「……うそじゃない?」


「嘘じゃないです!!」


マスター、主人あるじと言われる者が部下に全力で頭を下げてる図

なんと愚かなのだろうか……自分でも思う


「………じゃあゆるす」


「本当ですか!?ありがとうございます!!」


俺は手を合わせ少女の目の前でありがとうっと涙目で言った。

ちなみにこれは上司と部下の関係


もちろん俺が上司ね


はぁ〜マジで何してんだろ……

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