第120話 大泥棒、ここに極まる⑧

 全十一日を予定しているスト鯖はついに八日目を迎えた。


 各地では今も支配率争いが行われ、血で血を洗う抗争が絶えないという。


 そんな状況のなか、僕たち二人の間に大きな進展があった。


「ほんじょー! バイトの人が戻ってきた!」


 いつもよりワントーン高い声で僕を呼ぶのは並等さん。


 なんだかんだずっと一緒にいるので、声の感じでテンションが掴めるようになってきたのだが。


「ほんじょーくん。警備の交代時間、人員配置と人数、装備まで調べてきたよ」


 バイトくん、と名付けた通称探り子の人がアイテムを僕に送ってくる。


 それは一枚の紙で僕は画面いっぱいに表示させる。


「ふむふむ……やっぱり夜は手薄になるようですね。NPCがメインでプレイヤーは決まった時間に巡回に来てるわけではない、か。装備は――」


 僕は内容を並等さんに共有する。


「うえ~やっぱり装備は強そうだね。アサルトライフルぶっ放されたらワンパンされちゃうよ」


「並等さん見て。金庫に近づけば近づくほど警備が薄くなる」


「なんで?」


「あーそれはたぶんあれだ。信用している人間しか近づけないようになってると思う。映画とかでもあるじゃんそういうの」


 ……確かにバイトくんの言うとおりだ。


 このゲームがそこまで作り込まれているかは定かじゃないけど、警備が多ければ変装して忍び込むことだって容易だ。


 例えばカギを持っているのは特定のNPCだけとか。


 その線は疑ってよさそう。


「わかりました助かります。じゃあこれ、配当金です」


 僕はささっと金額を打ち込みバイトくんに送る。


「うひょー百万だぜ!」


「またお願いするかもしれませんので、そのときはよろしくお願いします」


「じゃ、じゃあさ! もっと高レートの台を打たせてよ! 最近寝ても覚めてもスロットのことしか考えられなくて、気が狂いそうなんだよね!!」


「そ、そうですか……」


 並等さんにアイコンタクトを送り、並等さんは静かに椅子を引いて座らせた。


「今日は勝てるッ……! 勝てるんだッ! この前の負けはこの日のため! 豪運見せてやるからさッ!!」


「ねえ、ほんじょー」


「ん?」


「大人ってみんなこうなの?」


「さあ?」


「ほんじょーはスロットやるの?」


「僕は引きこもり弱者男性なので」


「草」


「笑うな。こっちだって必死に生きてるんだぞ」


「もし……なんだけど、彼女がスロットやってたらどう思う?」


 いたことないんでわかりませんけど?


「まあ好きなら止めることもないかな」


「ほんと??」


 なんだ?


 妙な態度だな。


 もしかして……


「並等さんってスロカスなの?」


「最低っ! そんなんじゃないから!」


 じゃあなによ。


「今の質問は、彼女がカミングアウトしても好きって言えるか試してるの!」


 一般男性にはわかんねーよそんなもん。


 広辞苑にだって書いてないだろそれ。


「はいはい。大好き大好き」


「ほんじょーもまだまだだね」


「構わんよ」


「じゃあ私用事あるから落ちる」


「おかのした」




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