第118話 大泥棒、ここに極まる⑥

 スロット専門店スタンダードは街の中心に構えているから予想以上に目立った。


 ビラ配りの効果もあったようで「ビラを見た」って人も増えている。


 だから忙しくなってきた。


「クッソまた負けたわ! なんなんこれぇ!」


「あれだ遠隔だ。店長ボタン使ってるわこれ」


「またまた~。人聞きの悪いこと言わないで下さいよ~。ちゃんと勝ってる人もいるんですから~」


 台を二台増台し合計五台にまで増えたスロット。


 稼働は順調のようだ。


 このスト鯖も折り返しを迎えたことで資金に余裕のある人が増えている。


 だからみんな追加投資が止まらない。


 さっきから景気のいい声? が飛んでるし僕たちもウハウハだ。


「はーいお兄さんの勝利金です。また来てくださいね♡」


 並等さんも看板娘としての貫禄が出てきた。


 でも二人だと忙しい。


 アルバイトを雇ってもいいかな?


「ねぇほんじょー。あの人さっきからお金突っ込みまくってるけど大丈夫かな?」


 お客さんをお見送りした並等さんが僕の傍で呟いた。


「あの角台の人だよね。まぁいいんじゃない? 楽しそうにやってるみたいだし」


 でも、確かに不自然なほどお金を入れている。


 よほど暇なのかお金に余裕があるのか。


 ちょっと声かけてみよう。


「調子はどうですか?」


「……」


「実は俺、大学のときスロットで荒稼ぎしてたんだよね」


 そう言うのは雑談配信や外配信で有名な男性配信者。


 学生時代の思い出話が始まるのかな?


「でも配信するようになってスロットとは無縁になってさ。久しぶりにレバー叩けて最高に楽しいの」


「ならじゃんじゃん打っちゃいましょう! ここでしか味わえない緊張感がありますから」


「そう……だよね。もっともっと、もっと更にもっと打ち込みたい。占領する気はないけど、打ち続けていい?」


 是非もない。


「はい! 気が済むまでお願いします!」


 その人はわかったと言ってまた台と向き合った。


 ふふふ。


 理由があってスロットできなくなった人もいるみたいだから、そういう人がハマってくれるとありがたい。


 さぁ、沼に落ちるんだ。



☆★☆



「俺は人生を小出しに賭けている! 絶対に負けられないヒリヒリ感! この生きている実感がたまらない! 勝てる! 勝てるんだ!」


 誰もいなくなった今、打っているのはこの人のみ。


 なんか小声で呪文を唱えだした。


「ほんじょー。止めた方がいいんじゃない? ちょっと可哀想だよ」


「あぁ、さすがにストップいれよっか」


 あの台はまるで出ていない。


 設定①にしてるから負ける前提なんだけど、それでも出ていない。


 高レートだからお金が溶けるスピードは尋常じゃない。


「言ってくるね」


 短く答えて僕は台に近づいた。


「あの~お客様。もうやめたほうがいいのでは……」


「出るから! これから出るんだから!」


 たぶん百万以上突っ込んでるなこれ。


 現実のお金がじゃないからなんの損もないけど、気の毒には見えてしまう。


「最後の一万か……俺は勝てる。絶対に!」


 そして無情にも最後の資金をいれてしまった。


「揃え! 当たれ! 万枚出すんだっ!」


 されど揃わないスリーセブン。


 メダルは瞬く間になくなり、台は静かになった。


「くっそ……全財産使っちまった。懐かしいなこの気持ち。負けたときはくそったれな感情抱いて風俗行ってたな……」


「お客さん」


「探索で得た資金は空っぽだ。楽しかったよ二人とも、また来る」


 男性はスッと立ち上がり出口に歩く。


「待って下さい!」


「んあ?」


「また来てくれますよね?」


「あたり前田健太のスライダーだ」


「ならおいしいバイト、やってみません?」


「おいしいバイト? なんそれ」


 よしっ食いついた。


「一個お願いしたいことがあるんです。報酬は十万で考えています。やってみませんか?」


「もしかして打ち子とかサクラ?」


「いえ、簡単な調査です。北の銀行について調べてほしいんですよ」


「……ほう。あの銀行ね」


 男性は振り返り近くの椅子に座る。


 話しを聞いてくれそうだ。


「依頼したいのは銀行で警備しているポリスの数。あと人が入れ替わる時間です」




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