第116話 大泥棒、ここに極まる④

 五日目の夜、開店早々来客があった。


「お邪魔しまーす。このビラ見たんですけどここで合ってますか?」


 早速男性配信者が二人入ってきた。


 最初の犠牲者はこの人たちか……


「あっそうですここがスロット専門店スタンダードです」


 僕は一歩前に出て答えた。


「あー君たちギャングの」


「どうもほんじょーです。それと」


「VTuberの並等カナです!」


「なるほどねカップルギャング系ね」


 一体今の自己紹介で何を悟ったと言うのか……


「さぁ社長どうぞっ! 甘い設定になってるのでいっぱい出しまっせ!」


 気が変わる前に座らせよう。


 これぞ営業の基本。


 営業したことないけど。


「いやーでもお金ないんだよね。だから誰かが勝ってるとこ見てからやろーかなーって」


 なるほど。


 本当に出るのか、どんな台なのか。


 その辺見てから決める気だな。


 そう言うと思って対策済だ。


「またまたー冷やかしですか~? じゃあ僕が打ちますから見ててくださいね~」


 僕は得意げに近くの台に座り、お金を突っ込んでレバーを叩いた。


 そして数ゲーム後、あっさりスリーセブンが揃った。


「こんな甘い設定なんですよ~? 人が集まる前に打たないと損ですよ~」


 二人は言葉を失ったのか呆然と眺めている。


 さぁ迷え! 判断を鈍らせろ! 地獄への切符は僕が渡してやる!


「ちょっとくらい打ってもいいか?」


「まぁ好きにすれば? 俺もちょっと興味あるし」


 よしっ!


 いいぞお兄さんたち!


「じゃあ俺はこっちの台で」


「俺はこっち」


 三台あるスロットのうち、僕が打った台は避けたようだ。


 懸命な判断だが、それは命取りだ!


「よっしゃレバーオン!」


「一ゲームで当たれっ!」


 二人は期待を込めた右手でレバーを叩く。


 ぐふふ。


 その二つの台は当たらない。


 スロット台には二つの設定があって、一つ目はよくある確立機だ。UFOキャッチャーとかと一緒で、ある一定のところまでお金を突っ込まないと当たらない。


 二つ目は設定機だ。一から六まで設定があって数字が大きい方が当たりやすい。


 だからこの設定を利用して僕はすぐ当てられた。


 なぜなら、僕が打った方は確立機で当たる直前まで打っていたからだ。


 だからすぐ当たった。


 でも二人が打っている台は設定機。


 すぐには当たらないよ……!


「高レートだから金すぐ溶ける!」


「ギャンブル感がやばいねこれ! 海外の違法スロットやってるみたい!」


 そうだもっと楽しめ!


 沼に嵌まるんだ!


「あーっ惜しい今の!」


「俺も当たりそうなんだけどぁ!」


 当たるものか。


「おっこれって……」


 ゑ?


「やった――当たったぞ!」


「あっ俺も!」


 ゑ?


 ……そんなバカな。


 設定は一だから数ゲームで当たるわけないのに……


 まさか!?


「並等さん!」


 僕は並等さんをカウンターの奥へ引っ張る。


「え、どうしたの?」


「設定って何にした?」


 声が漏れないよう口元を手で隠して囁く。


「設定? 六だけど?」


 ファッ!?


「六が一番弱いんでしょ?」


「逆だよ! 一が弱いの!」


 だからあっさり当たったのか!


 ヤバいよどうしよう……


「先に勝っちゃうと僕たちの財産から還元しないといけないから、出されすぎたら払えなくて僕たちがケジメつけることになっちゃうじゃん!」


 どうしよう。


 プレオープンだから~って適当なこと言って店じまいするか?


 いや、二度と来て貰えなくなる。


 このまま確率に委ねるか?


 でも怖すぎる。


 どうする……どうする……!?


「あーでも連チャンしなかったー!」


 連チャンはしなかったか……


 仕方ない。ここは運命の神に託すとしよう。





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