第114話 大泥棒、ここに極まる②

「はぁ……はぁ……もう疲れたって……」


 バイオレンス女から逃げる回ること数分。


 バイオレンス女は遂にスタミナ切れを起こしその場で固まった。


 僕の方もヘトヘトだ。


 岩盤って言ったぐらいで怒りすぎだよ。


 岩盤のくせに。


「あーもー家具とかグチャグチャだよ。片付け手伝ってね」


 僕は嫌み混じりに呟く。


 せっかく買ったマイハウスなのにこれじゃあ台無しだ。


「次は……容赦しないから……」


 バイオレンス女は息を吸っては深く吐く。


 そこまで怒れるってもはや才能だ。


「僕は家具を整えるから並等さんは窓ガラスの修理して」


「指図しないで。全部ほんじょーが悪いんだから」


 むっ。


 まだ言うか。


「死ぬほど謝ったじゃん。もうおしまい」


「……んで、協力者はどうやって集めるの?」


 急に話題変えたな。


 あれか。流行の論点ずらしってやつ?


 あなたの感想ですよね。


「協力者とは言ったけどツーマンセルでいることは変えたくない。だから一時的なもので考えてる。バイトてきな?」


「いいじゃん日雇いで。ほんじょーにしては名案」


「でしょ? 日雇いなら深い関係もないし足がつきにくいと思うんだ」


「日給は?」


「並等さんが身体で払う」


「死ねぇえぇ!」


 ぶん投げられたお皿をマトリックスみたいにかわす。


「落ちろよぉおお!」


 次はナイフか……


 単純だな。


 直線でしか動かないものを投げるなんて。


「ほいっ」


 バク宙の要領でナイフを避ける。


 実に簡単なことだ。


 現実の僕がやったら頭から落ちて重傷だろう。


「逃げる事なら一流ね! このミドリムシ!」


「残念。褒め言葉だよ」


「褒めてねーわ! ちゃんと答えてよ!」


「日給はねぇ……十万円くらいで考えてるけど高いかな?」


「強盗するだけで十万?」


「まさか。あの銀行は前もって調査が必要。事前準備の人件費考えれば高くつくと思う」


「えっ払えるのそれ」


 そこが問題なんだ。


「僕の構造としてはあくまでも僕たちとアルバイトは一時的な関係でいたい。ただやってほしいこと伝えて、報酬を与える。だからバイトが捕まっても足がつかないようにしたいんだ。毎日会ってたらバレちゃうかもしれないし」


 これはある闇金漫画を読んで得た知識。


「妙に考えてるね。お金はどうやって集めるの?」


「……この家で闇カジノってどうかな? スロット買えるから一階を賭博場にして経営したい。お金に困るプレイヤーを集められそう」


「もしかして本業?」


「漫画読んで知ったの」


 誤解を生む発言はしないでほしいなまったく。


 僕は健全な日本男児だ。


「スロットなんて安いしすぐ買える。インテリアは……並等さんに任せようかな」


「それはいいんだけどさ、相手が勝った時のお金は?」


「高貸し設定のみにして客の十パーセントが勝つようにすれば客の投資額だけでまかなえると思う」


「ちょっとわかんないけどその辺は」


「つまり相手はスロットに高額を賭ける。でも十人に一人しか勝てない設定だから、その一人が勝ったとしても客の投資だけ……つまり負け分で還元できるってこと。だから僕たちの持ち出しはなし」


「わかんないままだけど上手くいくんだよね?」


 当然さ。


 全部漫画で知ったから大成功するはず。


「任せて。全ては計画通り」


 そうと決まればスロット台を買ってこよう。


 面白くなってきたぜ。




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