第111話 ね、みんな許してくれるでしょ

「いい? 準備できた?」


 ここは街の中心にある一軒家。


 この家にはギャングが数人住んでいるらしい。


 その中にあの場にいた人もいると聞いた。


 僕の声に隣に立つVTuberはゆっくり頷く。


「だだだだだだいいじょうぶだからああ」


 こりゃいかん。


 だいぶ舌が回っていない。


 お酒でも飲んできたのかな?


「ここで謝るのは一人だけだから深呼吸して落ち着かせよう」


「フー、ハー」


「はいひっひっふっー」


「違うから生まれないから!」


「どう。肩の力抜けた?」


「もう……もう行こうよ。私ストレスに弱いんだから」


 並等さんは早口で答えた。


 声を聞く限りでも緊張しているのが伝わる。


 でも乗り越えなきゃいけないよ。自分で巻いたタネは自分で処理しないと。


「じゃあ開けるから」


 短く告げてから勢いよくドアを叩く。


 数回叩くと奥からどうぞと聞こえてきた。


「お邪魔します」


「しつれ……いします」


 ただの一軒家。


 最低限の家具に大きなソファー。


 そのソファーに目当ての人物が腰掛けている。


「こんにちはほんじょーです。時間作って頂き感謝します」


「おー君たちが例の人ね」


「バディを組んでおきながら彼女の暴走を止められなくてすみませんでした」


 僕がぺこりと頭を下げると、後ろに隠れる並等さんも頭を下げる。


「律儀だな~。俺なら配信外でバレないように謝ったりするのにな~」


「ほら並等さんも何か言って」


 僕の後ろに隠れたままの並等さんを無理矢理前に立たせる。


「うえ……その、ごめんなさい! 感情的になって言い過ぎちゃいました……」


「気にしないよあれくらい。むしろ大人しい新人が多いから君たちみたいな若手が元気だとやる気になれるよ」


「ありがとうございます。彼女も深く反省しているので、この件はこれで勘弁して頂けませんか?」


「もちろん。いつまでも擦る気ないし、俺も長いことこの業界いるから大丈夫」


「その、本当に申し訳ありませんでした」


 もう一度謝ったのは並等さん。


「並等さんだったよね? もう終わったことだからこれからも頑張ってね。確かに俺たちギャングはいい加減だったし怒られて然るべきだった。あれから他のギャングもその気になったって聞いてるし、いい起爆剤だったのかもしれないね」


 なんて聖人なんだ……


「はい。頑張ります。それでお願いがあるんですが?」


「ん?」


「僕たちの作戦でポリスに一泡吹かせることを考えています。内容は――」


 二人で考えたミッション。


 四日目に突入したけど、依然ポリス優勢は崩れない。


 なんなら探索者も台頭してきた。


 一発逆転を狙うならここしかない。


「――っていうわけなんです」


「面白そうじゃん。協力者はいるの?」


「いえ、今初めて誘ってます」


「そっか。いつでも呼んでよ。力になるから」


 その後は連絡先を交換して終話した。


 家を出ると口を開いたのは並等さん。


「ああぁぁああ緊張したああぁあ!」


「声デカすぎ。あの野太い」


「野太いは余計でしょ!」


「元気出た?」


「……少しは」


「やるやん。んじゃ、次だね」


「ほんじょー。次はさ、私一人でやりたい」


「じゃあ僕はこれで」


「近くにいてってことだよ!」


 さみしがり屋かよ。


「しょーがねーなー」


 僕は面倒くさそうに返事する。


 思ったより並等さんは回復してる。


 これなら任せても良さそう。


 謝りながら仲間集めるぞっ!




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