第110話 一緒に謝ろう

 三日目に突入したスト鯖。


 各地では盛り上がりを見せるなか、僕は感情を落ち着かせながらある人物を待っていた。


今はまだゲームにログインしていない。


 先に通話するためにデスクに鎮座しているところだ。


 ……時間だな。


 でもまだ通話に来ない。


 まったく時間に遅れるなんて。


 ここが会社ならとっくに鬼電されているに違いない。


 上司にネチネチ言われて、みんなの前で怒られ、終いには窓際に追いやられ。


 きっと僕が会社に勤めていたらそうなっていたところだろう。


 良かった社会不適合で。


 いや良くないか。


 意味も無くマウスを振っているとようやく届いた通話の通知。


 やれやれ、出てあげますか。


「もしもし、ほんじょーです」


 先に話そうと思ってたから先手を打った。


 変に間が空くと互いに話しづらくなるし、僕って優男だな。たぶん。


「もしもし」


 ギリギリ聞き取れる声量で放たれたもしもし。


 声の感じで心情を察することができる。けど僕は言うよ。


「こんにちは。昨夜の件について話したい」


「説教しに来たの?」


 説教か……


 そうかもしれないけど、目的は炎上から救うこと。


 というか人に説教できるほど僕は優れた人間ではない。


「いんや。助けに来た」


「どうして? 私に関わると炎上するよ?」


 言葉の通り並等さんはプチ炎上していて昨夜は急に配信を閉じた。


 そりゃそうだよね。大手に向かって文句垂れてるんだもん。


 事務所から厳重注意を受けたと聞いた。


「僕は炎上擁護の配信で頑張ってるから大丈夫」


「……でも」


「でも禁止」


「……っ」


 並等さんは言葉を詰まらせた。


 たぶんだけどこの野郎って思ってるはず。


 でもいいんだ。汚れ役だとしても僕は並等さんを救いたい。


「ごちゃごちゃ言う気はないよ。今夜謝ろう。素直に謝ればみんな許してくれる」


「怖い」


「怖くない」


「配信すると荒らされる」


「僕がいる」


「だって昨日あんなに文句言ったんだよ? 許してくれるわけないじゃん!」


 少しずつ感情的になっている。


 僕は冷静に返すよ。


「そのままでいたらそうでしょ。でもすぐ謝れば大丈夫だから」


「根拠は?」


「僕が活動できていることが根拠。この活動が続けられているのは、そうやって助けてきた人がいるから」


「そんなこと言われても……」


「スト鯖に出たかったんだよね? いいじゃんかその気持ちがあって。僕なんて滑り込みだからモチベあんまりなかったよ」


「ムリだよ怖いよ」


「話しに行くのは僕がやる。並等さんはただ謝ればいい」


「……なんでそこまで協力してくれるの?」


「だって炎上擁護のプロフェッショナルだからさ! 今日も明日もスタンダード! 君に約束する!」


 自分で言っておいて恥ずかしい部分もある。


 でも言い切ること、大事。


「ほんとに信じるからね?」


「おう」


「逃げないでね?」


「おう」


「怒鳴られても傍にいてね?」


「たぶん」


「カッコイイとこ見せてよね?」


「約束する。将来の僕に」


「……ほんとに大丈夫?」


「へっちゃらさ」


「……胡散臭いけど」


「任せなさい。まずは事務所に謝って回ることを伝えて欲しい。許可降りたら連絡ほしい。人が増える夕方くらいから始めよう」




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