第109話 並等さんを助けてくださいね

 夜の公園。


 そこには僕と藤井さんだけがいた。


「――ということがありました。だから僕は何するわけでもなくこの辺でウロウロしてたわけです」


 一連の流れを話している間、藤井さんは静かに聞いていた。


 相づちを打つわけでも、意見を言うわけでもなく、ただ静かに。


 だから一方的に話し続けちゃったけど、彼女はどう思うだろうか。


「……藤井さん?」


 さすがに返事がなさすぎる。


 もしかして寝た?


「あっごめんさい私ったら……」


 その反応は聞いてなかったときのパターン。


 寝てたな。


 まぁ、いいけどさ。


「すみません連日夜更かししていたので頭がボーッとしてました。でも、ちゃんと聞いてましたよ」


「探索者も忙しそうですね」


「探索っていいですよね。子供のとき秘密基地作るために山に入ったり、橋の下に集まったりするの楽しかったですもん」


 へーお嬢さんっぽい感じする藤井さんだけど、子供のときはそういう遊びしてたんだ。


「そういえばモダさんって探索者じゃないですか? 今、何してるんですか?」


「モダさんですか? 一緒に行動する機会が少ないのでわかりませんが、女の子見つけてはちょっかい出しているそうです」


 モダさんらしいな。


 ちょっと安心した。


「ところでほんじょーさん。さっきの話し、私は言いたいことがあります」


「なんでしょう」


「その、並等さんが暴走しちゃったときになぜほんじょーさんは止めに入らなかったのですか?」


 そのことか。


「僕も難しい場面でしたよ。プチ炎上するかなって思いましたし」


「そこです」


「え?」


「炎上が目の前で起きかけているのに、どうして間に入ることをしなかったのですか?」


 どうしてって言われても……


 正直に言えば関わる気がなかっただけなんだよな……


「とばっちりが来そうだったから……?」


「見損ないました」


「ごめんなさい」


「知り合った当初、無関係の私を炎上から助けてくれたほんじょーさんなら、火の中に飛び込むことをするはずです。保身のために関わることをやめたのなら、ほんじょーさんの今までの活躍は何だったんですか? 有名配信者に近づくためにやってたんですか?」


「いやあの場の空気を読んでやらなかっただけで!」


「なんですか空気って? 空気読んで炎上擁護してたんですか? あなたはそういう人ではないはずです。炎上した人が必要以上に叩かれたり、実生活にまで影響が残ったり、表舞台に戻って来れななくなることをおかしいと認識して、今の活動をしてるんですよね?」


「私が思い描くほんじょーさんの姿は、いかなる場面でも炎上に飛び込み、最後はみんなを笑顔にさせる面白い人。だから……」


「だから?」


「今すぐ並等さんを見つけて和解し、迷惑をかけた配信者さん一人一人に謝ること。そして、ギャングがまとまるよう協力を呼びかけるのです」


「簡単に言うけど今燃えたばかりだから時間置かないと」


「そんなことしたら並等さんが戻れなくなります!」


 ぐぅ。


 簡単に言ってくれるぜ。


「じゃあ藤井さんもついてきてよ! そこまで言うのならさ」


「ダメです。これはほんじょーさんと並等さんの問題です」


「いやハードル高いってこれは! だって格上の配信者ばかりだからお伺いも立てないといけないのに……」


「ここはスト鯖です! リアルで会いに行くわけじゃないんですから、突撃して謝ればいいんですよ!」


「でもさぁ……」


「でも禁止です!」


「わかりましたよ……明日からやります」


「今やるの! はい車貸しますから、どうぞ乗って下さい!」


 藤井さんは車のキーをくれた。


「並等さんを助けてくださいね。約束ですよ」





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