第108話 一人の夜

 昼間にギャング大量粛清が行われたあと、僕は一人虚しく夜の街を歩いていた。


 ここは開拓した星ということで近未来であり建物は華やかだ。


 だから夜でも明るいし人が多い。


 そんな派手な街なのに僕は肩を落としながら歩いている。


『元気出せよ』

『そういうゲームなんだからしゃーないわ』

『並等の件は気にすんなよ』


 いつもは僕を罵倒するリスナーも今だけは同情してくれている。


「いやでも変な気分になっちゃいますよ。あのあとだって大変だったし……」


 あのあと、とは銀行での出来事。


 いてもたってもいられなくなった並等さんは格上配信者さんにたてついてしまったのだ。


 あの噛みつき具合は見ていられない。


 だから僕は制止を求めたけど、


「僕まで“そういう目”で見られちゃったし、ギャングの人に会うのが怖いです」


『まあ確かにあれはダメだよな』

『そうやって盛り上がらせようとしてるのに、真剣にやれとか言っちゃいけんよ』

『並等のコメント欄見てたけどプチ炎上してたよ。弱小が生意気だって書かれてたし』


 ……そうだったのか。


 いやそりゃ荒れるか。


 あのワチャワチャが好きで見てる人が多いのに真剣だの適当だの言ったら、反感を買うのは当たり前。


 至極当然。


「聞いた話しだと並等さんに真っ向から言われて落ち込んだ人もいるみたいだし、僕も謝ってこないと」


『並等連れて謝ろうぜ』

『今ログアウトしてる』

『でもさ、ほんじょーが気負うことなくね? 悪いのはあっちだし』


「炎上擁護をやってる身としては、あれはある意味見せ場でしたけどね。でも全然ダメでした」


 あの場に飛び込めなかったのは痛恨の極み。


 あれからギャングには嫌な空気が流れている。


「これからどうしましょう。とりあえず数葉さんとの約束があるし、お金渡してこようかな」


 ボソッと呟いたとき、僕を呼ぶ声がした。


 思わず身構えてしまう。あの場にいた人だったらどうしよう……


「――ほんじょーさーん。こんばんはー」


 聞き覚えのある声。


「藤井さん。どうも」


 色んなキッカケをくれた人。


 藤井ユイ。


「こんなとこで何してたんですか?」


 彼女は探索者だったな。


 ブーツにロングコートを羽織りショルダーバックを携えている。


「黄昏れてました」


「そうでしたか。今、お一人ですか?」


「はい僕らしく一人です」


「相変わらず笑いづらい嗜虐ネタですね」


「そっちは?」


「私ですか? さっき探索から戻ってきました。みんなとバラけたので今度は街の探索をしてみよーって思いまして」


 なんか順調そうだな。


「どうですか探索者は」


「すっごい楽しいですよ! みなさん和気藹々わきあいあいとしてるし未知なる世界を歩くのはワクワクします。このゲームグラフィックが綺麗だからほんとに探索してるみたいです」


 ……なんだか今の僕にはその眩しさが刺さってしまう。


 和気藹々とかいうのヤメテ。辛くなっちゃうから。


「でも、ギャングの方は苦戦してますね。支配率もポリス優勢ですし」


「ははは。そのうち逆転しますよ」


「ほんじょーさんがいればすぐですよっ。みんなほんじょーさんと話したがってるので今度紹介しますね」


 ファっ!?


 そうなの!?


「そうなればいいですね」


「私たちだって負けません。明日レアアイテムが売れる予定なので探索側も巻き返しますから」


 言葉に合わせてガッツポーズのエモートをする藤井さん。


 この人とっつきやすい印象あったけど、前より更に話しやすくなったような。


「まだ時間ありますか? この前ゲームした時は近況報告できなかったので、そこのバー寄りませんか?」


 うう……正直今は人と話す気分ではない。


 どうすっかな。


『ほんじょー。ユイちゃんに並等の件を相談するんだ』

『そうだ。絶対話せ』

『女の子のことは女の子に相談するのが一番。だってほんじょーなんだから女の子の心境とかわからないだろ?』

『そうだほんじょーにはわからない』

『おまいらだってわかんねーだろ』

『あんだとこの野郎』


 リスナーの言う通りか……


「いいですよ。奢ってください」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る