第107話 並等、限界

 リスナーから得た情報を頼りに現場へ急ぐ僕ら。


 どうやら支配率を取り戻すために同時多発テロをおっぱじめたようだ。


「ボロい車だなぁ……」


「なに? 文句あんのほんじょー」


「だって錆びだらけだし、ヘコんでるし、変な音聞こえるし」


 この車は草を売ったときにNPCから奪った車。


 逃げるときにぶつけたとは言え、廃車寸前の車に乗ってると気分は乗らない。


「あとでカッコイイ車買えばいいでしょ。むしろ女の子をこんな車に乗せてる時点でほんじょーがヤバいから」


「盗ってきたの並等さんでしょ」


「うるさい。フェラーリでも買ってきて」


『フェラー……』

『おいやめとけ』

『百万個とか言って欲しい』

『黙れ童貞』


「そこ右」


「うい」


 にしても急なテロだなぁ。


 まだ資金も戦力も十分じゃないのに思いきったことをしたもんだ。


 配信者魂が燃えさかるのはわかるけど、今じゃないと僕は思ってしまう。


「ほんじょーはギャングとして勝ちたいよね?」


 抑揚の無い声で聞いてきたのは並等さん。


「もちろんさ。ポリスをギャフンと言わせて勝ち鬨をあげたいね」


「じゃあさ、みんなにもう少しまとまるよう言わない?」


 ん?


「え、なんで?」


「だって……バラバラな感じがしない? ポリスは連携というかチームとして活躍してるけど、ギャングは好き勝手やってるだけじゃない」


 それを言うと僕らも好き勝手やってるような……


 言わない方が賢明か?


「ギャングって役職になればみんなそうなるんじゃない? わかんないけどさ」


「ギャングだからこそ組織があって、役割があって、目的があるって思わないの?」


 いやどうだろう。


 ポリスだってそうだし、なんならその辺の会社だってそうだ。


 会社勤めしたことない僕でもそのくらいは知ってる。


「それはなんていうかその、自分のチームを誇りたいってのはわかるけど」


「この前言ったじゃん。最高のギャングになるって」


 うーんこの子にどう言えばいいだろうか。


 合唱コンクールの時に「男子ちゃんとやってよ!」って怒り散らかすタイプ?


 そのあと泣いちゃって空気が乱れるけど、クラスのイケメンが立ち上がって男子を統率し、見事金賞獲得! 泣いた子とそのイケメンが付き合いました! ってなるラブコメ?


 それとも学園祭の時に男子と出し物の意見が割れて喧嘩になって、クラスのイケメンが……


「――じょー! ほんじょー聞いてる?」


「あう?」


「あうじゃないでしょ! もう目の前!」


 しまったついラブコメ妄想にふけてしまった。


 やってきた場所は銀行。


 大量の車とプレイヤーが集まってるけど……


「B地点全員確保!」


「おら大阪舐めんなよコラァ! おんどれは一生ムショにぶち込んでるやるからの!」


「C地点の強盗も捕まえたそうです! 被害も最小ですね」


 無線でやり取りをしているのはみずきさん。


 もうこれでわかる。ギャングの敗北だ。


 ポリスにねじ伏せられているギャングは多数。勝ち筋なんて見えるわけない。


「あっほんじょー」


「みずきさん。こんにちは」


「遅かったね。もう終わっちゃったよ」


 無意識に車から降りるとみずきさんが声をかけてくる。


 たまにみせる余裕の声音。ポリスの圧勝だったんだな。


「ほんじょー。この子は?」


「事務所開催のイベントで知り合ったVの人。ほらあのAmaterasuのVだよ」


「そっか」


 ……反応が薄いな。


 あの新進気鋭の若手集団Amaterasuと聞けば驚いてもいいと思うけど。


「あんまりポリスと仲良くしてほしくない」


「いや、でもさ」


「でもなに? 敵だよ?」


 うう……この子の悪い部分なのかな。


「私はスト鯖で目立ちたい。もっと頑張りたい」


「その気持ちは聞いたし理解してるよ」


「じゃあなんで捕まってもヘラヘラできるの? 他の人もそうだしこんなの違うよ」


「ストップ並等さん。それ以上は言っちゃいけない」


「なんでよ」


 誰だってゲームで勝ちたい。


 目立ちたい。


 配信で名を売りたい。


 だからって「マジ」になってはいけない。


 ここはネットの世界なんだ。社会と違って悪いことを悪いと言っても、その場のノリや空気を掴めなければたちまち浮いてしまう。


 ある程度バランスを保ちつつ、受け入れられないことはやっちゃいけないんだ。


 もしそれをしてしまうと「炎上」してしまうんだよ。


「一回戻ろう。ね?」


「やだ。なんでこんなことしたのか聞いてくる」


「ダメだよ!」


 並等さんは僕の制止を振り切り人混みの中へ消えていった。


「ほんじょー。追わないの?」


「ちょっと手に負えないかな。昔のみずきさんみたい」


「あ?」


「ヒィごめんなさい銃は向けないで!」


「いいのそのままで?」


「僕が言うより大人に言われれば気づくと思う」


 きっとそうだ。


 僕みたいな根暗陰キャ引きこもりに言われるより、成功してる人にたしなめられる方が効果的だよきっと。


 うんうん効果的。


 マジでそうあってほしい。


「ほんじょーもハズレ引くこと多いね」


「それみずきさんが言う?」


「“元”ハズレだもん」


「たし蟹」


「否定しろ」


 後頭部を殴られた。


 親父にも殴られたことないのに。


「もう帰るの?」


「はい。活動限界なんで」


「そっか。またね」


 別れを告げてその場を離れた僕。


 明日並等さんに心境を聞いてみよう。


 それまでに事件を起こさないといいけど……





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