第105話 抗争スタート

 役職のごとの支配率が公表され、各地では権力争いが勃発していた。


 ギャングはポリスと衝突し、ギャング同士でも派閥争いがスタートした。


 大犯罪時代と命名し暴れる人が増えていくなか、僕たちは……


「ほんじょー。こんな草集めてていいの?」


 街の外で怪しい草を集めていた。


「高く売れるから大丈夫。ギャングと言えば草っしょ」


 かれこれ一時間は集めている。


 並等さんは飽きてきた様子でちょいちょい手が止まっている。


「だって飽きたんだもん。私も強盗とかカーチェイスとかやりたい」


「つべこべ言わず手を動かす。口より手を使って」


「へ~手でしてもらうのが好きなんだ」


「年頃の女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ」


 まったく。この子はすぐ下ネタだ。


 そりゃ僕だって派手な犯罪したいよ。


 でも資金はないし、ポリスに抵抗できる装備もない。


 ……ん? 資金と言えば……


「そういえば並等さん。五百万はまだあるよね」


 あの時の五百万については何も聞いてなかった。


「…………うん」


「なに、その間は?」


「魔が差した」


「ふざけないで」


「……ない」


「いや聞こえない」


「ない、って言ったの」


「は? 五百万が?」


 ウソだよな?


「使ったもん」


「いつ? どこで?」


「ほんじょーが迎えに来てくれないから、釈放してもらうのに払ったの」


 釈放って……初日の牢屋で?


 だって二日目からが本番だし、初日の前科は一旦リセットされるのに?


「ちょっと来て並等さん」


「やだ」


「やじゃない」


「だって私もみんなとわちゃわちゃしたかったんだもん」


「チェストオオオオオオオ!」


 僕は持っていた草を投げつける。


「ちょっと投げないでよ! 悪いとは思ってるし!」


「大事な大事な五百万を使いやがって! 僕たちが唯一勝ってる要素だと思ってたのに! これじゃ強盗も逃走もできやしないじゃないか!」


「うっさいなぁほんじょーは! ないものはないの! 別の方法考えてよ!」


 なんて無責任なお嬢さんだ!


「じゃあこの草をたくさん集めて売らないといけないね! ほら、働いて! 休憩なんてないからね!」


「ブラック企業!」


「やかましい!」


「やれやれ痴話喧嘩か。お盛んなこと」


「ラブラビッチさんも言ってやってくださいよ。大事なお金全部使ったんだから」


「女の子はお金がかかるもの。男なら許容範囲内じゃない」


 くっそこの人はオネエ寄りだったな。


「はい二対一で私たちの勝ち。土下座なさい」


「並等さんに土下座するくらいならカタツムリに謝ったほうがマシ」


「じゃあ私をカタツムリだと思ってよ」


「カタツムリだったらその草食べれば? 飛ぶと思うよ?」


「そもそもこれなに?」


「最高にハイになれる草」


「あーそうですか。ラブラビッチさん、行きましょ」


「あーまだ終わってないよ! もうちょっと収穫して!」


「大丈夫たくさん集めてきたから」


 ラブラビッチさんさんはそう言うとバッグの中身を共有してみせた。


「すごーいこんなにたくさん! さすがですね!」


「どこかのVと違って優秀ですね」


「ねえそれ私のこと?」


「知らない」


「フフフ、これだけあれば十分ね。さ、街に戻りましょ」



☆★☆



 スラム街の近く。


 薄暗い路地にて。


「いい? このNPCが草を買ってくれるんだけど、大事なことが二つ。まずは右クリックを連打すること。高速で売買できるから。もう一つはすぐ通報されるからすぐに逃げること」


「わかった」


「いいわよ」


「じゃあ、いくよ」


 時間との闘いだ。


「はいはいはいはいはいはい!」


 凄い勢いで売買される草。


 所持金がみるみる増えていく。


「全部売るからね! 余すことなく!」


「おりゃああああああ!」


「あーそこ! すごいわこれ!」


 よし……この調子なら…………


「マズい! もう通報された!」


「え、もう?」


「気にしないで。このまま完売させましょ」


 僕もそのつもりだ。


「もうちょっと……あとすこし……」


「ちょっともうポリス来たんじゃない!?」


「まだよ! もう少し! 先っちょだけ!」


 ちょいちょい下ネタ挟むなこの人。


「――よし、完売! はい逃げるよ!」


 振り返り路地の出口を見た時だった。


「お前らはもう包囲されているー! おとなしく投降しなさい!」


「おらー大阪やぞー! 出てこんかーい!」


「大変だ大阪ポリスまで来た! 走って!」


 僕らは一目散に出口を目指す。


「並等さん! そこの車奪って!」


「任せて!」


「僕は出口を塞ぎます!」


 路地を飛び出し、家屋に立てかけられていたパイプやドラム缶を倒す。


「ぐああああ! なんてことするんだほんじょーくん!?」


「え……って、なんでそこにいるんですかラブラビッチさん!」


 二人とも路地を出たと思ってパイプを倒したけど、まさかラブラビッチさんが遅れていたとは。


「今助けます! というか間に合わないなら先に言ってくださいよ!」


 下敷きになったラブラビッチさんを引っ張るがビクともしない。


「ふっ。俺もここまでか」


「何言ってるんですかみんなで逃げるんですよ!」


「ほんじょー車持ってきた!」


「ほら逃げる準備出来ましたから!」


「少年よ。俺はここまでだ。生きろ!」


 何をかっこつけてんだこの人は!


「俺がポリスを巻き込む……」


「それは……手榴弾!?」


「じゃあな世界! 俺がいなくなって寂しい思いをするなよ!」


 キンッとピンを抜く音が届き、手榴弾が宙を舞った。


 僕は百八十度振り返り並等さんを探す。


 なんか、味方になる人がことごとくいなくなっていくような気が……


「出して急いで!」


 告げたあと、大きな爆発音が響いた。





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