第104話 ギャング、劣勢
スラム街にて。
「ちょっと並等さん。縄で縛るまではしなくてよかったんじゃないの? いい加減自由にしてよ」
「ダメ。気が収まるまではそのまま」
まったく。
いきなり金属バットで襲ってきたと思ったらこれだ。
「着いた。みんないるみたい」
「先に行かないでよ。僕は動くの遅いんだから」
「イモムシみたいでちょっと可愛い」
この子イモムシが好きなの?
「いかにもスラムって感じだね」
南のスラム街はテレビとかで見るような光景だった。
服が破れている人。
痩せ細っている子供。
妙にリアルで変な気分だけど、雰囲気はバッチリだ。
「おっギャングの人たちだな。入って、どうぞ」
小さな家が並ぶ通路を進むと一際大きい家屋に辿り着いた。
入り口に立つ人に軽く挨拶してから中に入ると、
「ここのリーダーは俺だぞ!」
「うるせーポリスに泣きついてただろオメー!」
「あんだと落ち目の配信者が! お前雑談配信しかしてねーじゃん!」
早速喧嘩が起きていた。
「こんにちは~」
僕も続いて挨拶する。
「こんにちはほんじょーです」
「おおっ仲間が集まってきたな」
「今ここのボスを決めてたんだよね」
「こいつと俺、どっちがボスに相応しいと思う?」
こいつ、とはゲーム実況で有名なラブラビッチさん。
俺、の方は僕からカツアゲした流神ユズルさん。
どちらもこの場にいる中じゃトップクラスの人気を誇る。
だからリーダーに立候補するのは必然か。
「お金返してくれれば流神さんに一票ですかね……」
「ほんじょーまたカツアゲされたの? だっさ」
「ううん。その時の片割れ」
「悪かったってみんじょーくん」
「ほんじょーです」
まったく。
謝る気ないなこの人。
ま、それが持ち味なんだけど。
「おーいみんな! 運営さんから話しがあるみたいだぞ」
輪の中の誰かがそう告げた。
「みなさんこんにちは運営です。今日もスト鯖を盛り上げて下さりありがとうございます。早速ですが、支配権のことは知っていますね。初日の行動も加味されるとお伝えしていましたが、今の支配率はポリスが七割占めていますね」
「でも運営さん。ポリスは最初から銃があるし車もある。ちょっとパワーバランスが悪くないですか?」
意見を切り込んだのは流神さんだ。
「確かに初期のパワーは違います。でもポリスは犯罪が起きないと何もできません。つまり常に受けの状態なので先に行動起こせるのはギャングや探索者です。ポリスはリアルタイムで起きた問題を解決しないといけないので、ログイン状態によっては人手不足だってあり得ます。その点、ギャングは一人でも犯罪が完結するので、その辺でバランス取ってるつもりです」
周囲からは「まぁそれなら……」と聞こえてくる。
僕もこの説明なら納得出来る。
その後は概要を聞き、一度お開きになる。
「ほんじょーは私と行動するから」
「嫌だ」
「嫌言うな」
「やだ」
「君たちだよね昨日ポリスのヘリ壊したの」
僕たちが話していると声をかけられた。
相手は、なんとラブラビッチさん。
ちょっとオネエな感じと男気溢れるトークが魅力の人だ。
「厳密にはスナイパーが倒してくれました」
「そうか。俺も混ぜてくれない?」
「……! もちろんです!」
「でもラブラビッチさんなら私たちなんかと組まなくても……」
「誰も組んでくれないんだ」
辛い!
でもラブラビッチさんを避けるのはわかる。
弱々しいときと頼りになるときの差が激しいから、普段はポンコツって言われてるし。
「大丈夫です。僕たちと頑張りましょう」
「ありがとう。君、いい目をしてるわね」
え?
「そんな見つめないで。照れちゃうから」
え?
「並等カナです。よろしくお願いします」
「ん」
なんか態度違くない?
「最高のギャングになりましょう。ほんじょーくん、並等さん、よろしくね」
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