第100話 エチエチポリスと筋肉職務質問

「待ちなさーい!」


 後方から追ってくるポリス。


 僕の車はNPCから奪った普通の車だから亀のように遅い。


「はーい、ちょっと君止まれるかな?」


 なので瞬く間に車を横につけられてしまった。


「急いでるんで!」


「あーらお姉さんの取り調べが嫌なの坊や?」


 ん?


 なんともあでやかな声だな。


「エチエチ担当の翡翠ひすいミオですぅ~。乱暴な子は嫌いよ?」


 ……。


「緊張しなくていいの。私の言うとおりにすればいいだけだから。大人の遊び、してみない?」


 ……。


「お姉さんのこと嫌いなの? すぐ虜にしてあげるんだけどな~。気持ちいいことしたくない?」


 ごめん。


 正直めっちゃ興味ある。


「どんなことしてくれるんですか?」


「男に囲まれるのは嫌いでしょ? 二人っきりで、静かな場所で、甘~い時間を過ごしましょ」


「おいいいいい! 信号で止まってるんだから捕まえろよ!」


 後続のパトカーもやって来た。


 どうしてだろう。


 心の中で舌打ちをした自分がいる。


「よーしそのまま動くなよ! こちら筋肉チーム、逃走車を確保」


「可愛い坊やと遊ぼうとしたのにどうして邪魔するの?」


「バカタレわざわざ信号で止まったんだから捕まえるのが先だろ!」


「ふーん。変に熱い男は嫌い」


 ギャングを目の前にして険悪なムードを出す二人。


 あの、僕をほったらかしにしてまで言い争う場面ではないような……


「それと筋肉チームってなに? 私、女ですけど?」


「ふっ。若いな。全ては筋肉から始まる。何するもだ。筋肉がなければ人間なんぞ無力に等しい」


「筋トレしすぎて脳まで筋肉に犯されたわけね。筋肉に犯されるくらいなら私を犯してみればいいのに」


 いやいやアウトってレベルじゃない発言ですけど?


「まったくこれだから貧弱は。いいか、見ろこの上腕二頭筋! 膨れ上がった僧帽筋そうぼうきん! 数多の訓練で鍛え抜かれた筋肉は何も裏切らない。エイムも筋肉が大事だ。そうだろう?」


 わけわからなくて草。


「アバターでしょそれは。邪魔しないで」


 そう言ってエチエチポリスは僕を車外へと引きずり出した。


「椅子になりなさい」


「……はい」


 僕を四つん這いにさせるとエチエチポリスは躊躇いもなく座る。


「ほんじょー……ね。じゃあこれからR-18職務質問を始めます」


「待て。筋肉職務質問が先だ」


 この二つの違いってなに?


「私が先なの。ねぇほんじょー、君は何フェチなの?」


「俺は腹筋だ」


「黙って」


「特には無いですね……」


「恥ずかしがらないで。内に秘める欲を教えて」


「声……ですかね」


 だって声での関わりはたくさんあるし……


「違うでしょ? 君の欲はそんなんじゃない」


 あんまり考えたことないけどな。


 って、なんで僕はこんな茶番に付き合っているんだ?


「ほんじょーって言ったな。お前はいつ筋トレに目覚めた?」


 目覚めたこと前提で話すの?


「スポーツとかやってないんで……」


「プロテインは?」


「飲んだことないです」


「食事制限はしているのか? 今何キロだ?」


 してるわけねーだろ!


「体重は……五十五キロくらいです」


「バカモン。ベンチプレスの重さだ」


 だからそういうのやってないって!


「「なら」」


 なら?


「「開発した方が良さそう(だな)ね」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る