第98話 心の温度と反響

「よし……ここでログアウトしよう」


 数葉さんと契約を交わし出所してきた。


 並等さんがブーブー言ってたけどあの子には多くを語れない。


 だって全部話してしまいそうだから。


『シャバの空気はええな』

『ゴミ箱に隠れてログアウトかよ』

『草』

『臭やろ』


「だって他に行くとこないんですもん。夕飯食べないといけないし」


『バッキャロー! 配信者なら倒れるまで配信せんかい!』

『ほんじょーって生活習慣だけはいいよな』

『配信者なのに珍しい』


「もう十九時ですもん。今食べないとお母さんが寝ちゃうし僕もお腹すいた」


『やれやれこれだからキッズは……』

『社畜の俺は倒れるまで酒飲んで寝ながらしょんべんするけどな』

『それただのおねしょや』

『肝臓終わってます』


「みなさんこれからですよ。夜は長いですから」


『もうちょっとはっちゃけてもいいんでない?』

『そうだよおとなしいよほんじょーは』

『スト鯖はお祭りみたいなもんだからふざけ散らかしていいのに』


「今でしか交流できない人ばかりなんで慎重になっちゃいますよそりゃ」


『まぁほんじょーだもんな』

『陰キャには難しいか』

『俺なら可愛いV見つけてペロペロするのに』

『黙れ童貞』

『並等とはどこまで関係持つの?』


 いや言い方。


「どこまでって言われても……同じギャングだし楽しめたらいいなーって思ってますけど」


『ふー。やれやれ』

『ほんじょーはAmaterasu陣営としか関わりないんだから他事務所のVと仲良くしなきゃ』

『そうだよ』

『スト鯖終わってもコラボできる相手を見つけよう』


「まぁまぁ十日間ありますから。そんじゃ、一旦閉じますね」


 そう言ってから配信停止のボタンをクリックする。


 いやー疲れたな。


 十日も持つかな。


 みんなパワーが凄いから飛ばしまくってる。あの元気はどこから湧いてくるんだろう。


 さて恒例のエゴサタイム。


 誰かのクリップに僕が映ったりしてないかな。


 タイムラインは……切り抜きばっかりだ。


 トレンドもスト鯖がランクイン。


 この一大イベントが盛り上がらないわけないか。


 あっこれ並等さんだ。


 あははめっちゃ殴られてる。


 ムショでブレイキン○ダウンしてるよ。


 女の子が言っちゃいけない言葉が飛び交ってるけど、女子プロレスみたいで面白いな。


 ポリスに襲われてる人。


 強盗を繰り返す人。


 まだ見ぬ地を闊歩する人。


 みんなやりたい放題だ。


 僕も切り抜きとかしてほしいな。


 ……でも、どこにも僕が映ってない。


 思えば僕はどんな気持ちでここに来たんだろう?


 代役だからしょうがなく? いや、そんなことはない。


 目立ちたいけど目立つことしてたかな?


 コンビニ強盗はしたけど、そのシーンはどこにも残されていない。


 これテレビで言えばつまらないからカットされてる感じ?


 これでいいのか僕は。


 リスナーが期待してるのはいつも通りのほんじょーなのか?


 並等さんはノリノリだし場の空気に合わせて動けてる。


 楽しんでる感じが伝わる。


 じゃあ僕は?


 僕はなんだ?


 辞退した人がいるのに平然とプレイしていいのか?


 もうわからん。


 わかんないけど、ハチャメチャなことをしたい。


 お風呂に入りながら決めよう。


 今のままじゃダメな気がするんだ。





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