第95話 ここはスト鯖

「着いた着いたここだよほんじょー」


「うん」


「どしたの浮かない顔して」


「いや、これ」


 僕はスマホを並等さんに見せる。


「電話来てるじゃん。でないの?」


「……知らない相手からなんだよね」


「そう言えば運転中も鳴ってたよね」


 北側の廃墟エリアまでの道中、ずっとスマホが鳴り続けていた。


「いいじゃん出なよ。ここなら安全だし」


 違うんだ。


 僕の番号を知っているのは二人。


 モダさんとポリスの数葉さん。


「連絡先教えたのはモダさんと数葉さんだけなんだよね」


「へー。なんで数葉さんの番号知ってるの? だってポリスでしょ」


 うぐっ。


 あの人との関係値は教えられない。


「スタート後に助けてくれたんだよね。ただそれだけ」


「そっか。見てここ、良い感じじゃない?」


「えらい不気味な雰囲気の廃墟だね」


 僕たちが見ているのは半壊のレンガの建物。


 薄暗さも相まってひんやりとした空気を感じる。


「中が結構広いんだよ。車も隠せそう」


「おばけでも出そうだね」


「そういうこと言わないで」


 なんだ怖いのか。


「……並等さん。そこの影が動かなかった???」


「えっ!?」


「ほらそこの隅っこ」


「ちょっムリムリ……」


 お腹に息を溜めて……


「…………あぁああああ!」


「ぎゃああああああああ!!!」


 ふふ。


 びっくりしたろ。


「お前ふざけんなよマジで!」


「言葉が乱暴だよお嬢さん」


「――仲良しなカップルだね」


 ん?


 今喋ったのは並等さん?


「並等さん今話した?」


「もうビックリしないから!」


「ははは。元気で羨ましいよ」


「「ぎゃあああああああああ出たあああああああ!」」


 ムリムリムリ!


 マジのホラーじゃんか!?


「ああっ逃げないで」


「追いかけないで!」


「そういうつもりじゃなかったんだよ」


「こっちに来て顔見せてください!」


 外は月が照らしてるから正体の確認ができる。


「ごめんごめん。現実でも日光が苦手なんだけど、ゲームでも明るい場所が苦手でね」


 闇から生み出されたようにヌルッと人型の影が動く。


「プロゲーマーの夜叉やしゃです。よろしく」


「やしゃ? って誰?」


 ごめんだけど僕も分からない。


 だから視線を僕に送るのはやめてほしい。僕が答えられないと空気が重くなる。


『ほんじょー。夜叉は格ゲーのプロ』

『アジア屈指の実力者』

『超のつく引きこもり』


 ナイスコメント欄。


「この人は夜叉さんで格ゲーのプロでアジア屈指の実力者で超のつく引きこもり」


 あかん。棒読みでそのまま読んでしまった。


「うわそこまで言うんだきっつ。ほんじょー見損なった」


「いいよいいよ。俺が一番知ってるから」


「す、すんません」


「ところでお二人はどうしてここに?」


 あなたもどうしてここに? って聞きたい。


「指名手配されちゃって逃げてきたんです。ここならポリスが手薄だと思って」


「あー君がほんじょーくんか。うちのHaYaTeが世話になったようだね」


「えっもしかして同じプロチームですか?」


「俺は別チームだけど彼がプロになる前から知っててね。指導したこともある」


 なんか配信の世界も広いようで狭い。


「ねぇなんの話し?」


「ごめんごめん。夜叉さんはギャングですか?」


「うんこの通り」


 この通りって言われても半袖短パン姿だから虫取り少年の方が合ってる気もするが。


「良かったです私たちもギャングです♪」


「匂うな」


「えっ?」


「二人から恋愛の匂いがする」


 なに言うてん。


「私がこのボンクラと? ちょっと冗談が過ぎるな~」


 言いすぎじゃない?


「よかったら夜叉さんも一緒に行動しませんか?」


「いいのかい? 俺みたいな暗いやつがいても」


「大丈夫です。心強い味方ですから」


 その後僕たちは互いの連絡先を交換した。


「リアルの時間は……十八時か。これからもっとログインが増えるから警戒しよう」



☆★☆



 車内にて。


「私たち、最大のギャング組織作ろうとしてるんです」


「頑張りたまえ」


 反応薄っ!


「夜叉さんは野望とかありますか?」


「毎日が楽しければそれでいいかな」


「引きこもりでも?」


「いや言い方」


「いいよいいよ」


 僕たちが目指している場所は宝石店。


 人数分の車と武器を確保するためにお金がもっと欲しいんだ。


「そこ右」


「うい」


 なんか妙に車が多い。


 NPCが乗ってる一般の車の他にカスタムされた車もすれ違う。


「突き当たり左ね」


「うい」


 さぁ来たぞ宝石店。


 大泥棒の時間だ。


「――ってポリスめっちゃいるけど!?」


 なんでここに!?


「おいこら止まらんかいそこの車ぁ!」


「お前らも強盗しに来たんだなこの野郎!」


 その宝石店では銃撃戦があったのか、近くの車が燃えていてお店の入り口が壊されている。


 更に何人も倒れている。


「大量検挙やぁ!」


「ポリスのみなさん! 指名手配中の大犯罪者ほんじょーを連れてきました!」


 って夜叉さんがポリスに向かって走っていったけど!?


 どゆこと!?


「まさか……裏切ったな夜叉さん! あなたが僕をここに連れてきたんだね!」


「裏切り? 甘いねほんじょーくん! 自分から指名手配のことを漏らせば、ポリスに情報流して誘導するに決まってる。そうやって報奨金を貰うのさ!」


「ほんじょー囲まれちゃった!」


「おら逮捕やほんじょー! 署でたっぷり躾けてやるからのう!」





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