第93話 あれ? これって、青春?

「ボガアアアアアン」


 強烈な爆発が響く。


 あぁ……ここまでだ。


 また獄中で愛を叫ばないと……


「うわああ痛い痛い!」


 爆発に巻き込まれたのは僕と並等さん。


 この距離での爆撃だ。


 間違いなく4ぬ。


「そんなひどいよお……可憐な乙女にここまでするなんて。末代まで呪ってやるんだから」


 意外と執念深いなこの子。


「ううう……ってあれ? ダメージがない」


 違うよ。


 走馬灯を見てるんだ僕らは。


 ほら、お母さんとお父さんが見え……ない。


「ほんじょーさーん! 無事ですかぁー!」


「なんで無傷なんだろ……だって目の前でミサイルが……」


 このゲームは体力の表示はないが、受けたダメージ量で視界が赤くくすむ。


 なのに視界は鮮明だ。


 どういうことだってばよ。


「おい、あいつらピンピンしてるぞ!」


「そんなわけねーだろ。重傷なはず!」


 確かにミサイルは発射された。


 でも無傷なのはおかしい。


「でもさ、爆発したタイミングがおかしくなかったか? 着弾の前に爆発してたような」


「確かに変なタイミングだったけど暴発ぼうはつしたのか?」


 コックピットに鎮座する二人も事態を飲み込めていない。


「ははーーん間に合ったな」


「よかった間に合った」


 不意に聞こえた声。


「なっお前らか!?」


 瓦礫を避けながら外に出ると、右の方にドデカいブツを構えた二人がバイクに跨がっていた。


「仲間を助けに来たってわけよ! ほらもう一発……」


 そのうちの一人がスナイパーらしき銃を撃ち放った。


「おい浮上浮上!」


「ムリ間に合わない!」


 ビュン! という音が遅れて届く。


 黄色の光線がヘリのプロペラを打ち抜いた。


「やばい墜ちる!?」


「うわあああああああ!」


 プロペラを打ち抜かれたヘリはコントロールを失って近くのビルに向かって一直線。


「ほら逃げるんだ! 追っ手が来るぞ!」


「ほんじょーさん!」


 並等さんの声でハッと我に返る僕。


「君らはこのバイクを使いな。捕まるんじゃないぞ!」


「あの、どなたですか?」


「名乗るほどのものじゃない」


「俺はハユン。こっちはソン・クジュン」


「おい言うなよ!」


 ハユンにソン・クジュン……?


 ってバトロワの世界大会に出てる韓国プロ!?


「おまわりが来たよ! また会おうジャパニーズボーイ!」


「ほらほんじょーさん乗って!」


「う、うん」


 前に僕で後ろに並等さんが座る。


「うああいっぱい来たよほんじょーさん! 早く早く!」


 ってバイクなんてリアルでも運転したことないよ!


 えーと……マウスで方向変えて、Wキー前進ね。


 アクセルは右クリックか。


「なんかハリウッド映画みたい!」


「ちゃんと掴まっててね! 行くよ!」


 発進と同時にサイレンの音が近づいてきた。


「オラー大阪やぞー! 止まらんかい!」


「うちのヘリを壊しやがったな~! たっぷり請求してやるからよー!」


 どっちがギャングなのかわからないほど荒い言葉を使うポリス。


「あははははいっぱい来た!」


「笑ってる場合じゃないよ!?」


「ほんじょーさんなら大丈夫です♪ あ、そこ右がいいです」


 グイッと車体を傾けて細い道に侵入。


「街の中心は道が広いので小道を使って巻きましょう!」


「なんか、凄い冷静だね」


「楽しい方が落ち着けるんですよ♪」


 僕はいっぱいいっぱいなのに凄いなこの子。


「バイクって爽快だな~免許取ろうかな」


「でも危ないよ現実だと」


「はぁほんじょーさんったら。そこは俺が乗せてやるって言えないとモテませんよ?」


「自転車で勘弁して下さい」


「ほら道を抜けますよ。前見てて下さいね」


 小道を抜けると西日が差し込む。


 バイクで女の子乗せて。


 夕方のこの感じがまるで学校帰りみたいだ。


 そう言えば毎日彼女をバイクで家まで送るパリピな同級生がいたな。


 あいつもこんな気持ちだったんかな。


 ってことは今の僕、青春してる?





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