第92話 ほんじょー、動きます

「なけなしの金で飲む水はうまいだろほんじょーくん」


「モダさんありがとうございます。危うくのたれ死ぬところでした」


 郊外で倒れていた僕らを見つけたのはモダさん。


 すぐ水を買ってきてくれて動けるようになった。


「して、どうして女の子と一緒にいるんだ?」


「たまたま会ったんですよ。モダさんがログアウトしたあとに」


「……本当に?」


 なんか疑われてる?


「はい」


「もし偽りがあったのなら最高裁だ。覚悟しておけ」


「えと……なにか気になるところでもあるんでしょうか?」


「気にするな」


 いや気になる。


「モダさんに助けて頂けるなんて……今年の運全部使った気がします」


 ぺこり、と謝るのは並等さん。


「はっはっはっ。なーに気にするな。もしほんじょーが思春期特有の目で見てきたら俺に報告するんだぞ」


「はい!」


 そんな元気に「はい!」って言う?


 信頼ゼロなの僕って。


「しかし困ったな。三人揃って金がないとは」


「まずは生活資金の調達が必須ですね」


「はいはーい! 私に名案があります!」


「申せ」


「ズバリ、強盗ですね!」


 右手を挙げた並等さんは高らかに宣言する。


「僕たちギャングなんでやるならそれですね」


「待て。俺は探索者だから加担できない」


「バレなきゃいいんですよバレなきゃ。私たちなら上手くいきます!」


「じゃあやろう」


 いや手の平返すの早すぎぃ!


 モダさんって絶対若い子好きなタイプじゃん。いい年なのに。いや無粋な考えか。


「マップ見ると近くにコンビニがありますね。ここでやりますか」


「賛成ー! 行きますよ~!」


「元気な子だな。こんなおじさんにまで明るく接してくれるなんて。本当に愛嬌があって可愛くて愛してしまう子だ」


「モダさん。犯罪の臭いがします」


「いつかほんじょーくんにも分かるときがくるさ。電車で座っていても女子高生が隣に座ってくれなくて、おまけに距離を置かれるあの瞬間を」


 切ねえ。


「さあ行くぞ。目指すはユートピアだ」



☆★☆



「盗め盗め! ポリスが来る前に!」


「ほんじょーさん、外はどうですか!?」


「まだ来てないです! どのくらいかかりますか?」


「結構金がある。こりゃ大もうけだ!」


 盗んだ車でコンビニにプリ○スミサイルして、店員やお客さんが逃げたのを見計らって僕たちはレジのお金を盗む。


 並等さんが金を盗み、僕は防犯カメラを潰してから外の様子を窺う。


 探索者のモダさんは逃走用の車を準備する。


 これならモダさんにヘイトが向くことはない。協力させられたってことにしてシラを切れるからだ。


 掴まるのは僕たちギャングでいい。


「むむ! 警戒レベルが上がったな、来るぞヤツらが!」


 モダさんの一言で緊張感が増す。


 警戒レベルは二。


 通報が入りポリスが出動するときのフェーズだ。


「郊外だから巡回中のポリスがいたとしても数は少ないはずです!」


「も、もう少しで全部です! 全部盗んでやるんだから!」


 いいぞ並等さん。


 全部盗んでしまえ!


「おい二人ともヘリが来やがった!?」


「もう来たのか! 並等さん逃げよう!」


「もう少し……もう少しで全部なんです!」


「バカモン逃げるんだ!」


 外からバリバリとプロペラの音が響く。


「そこまでだ盗人ども!」


「こんな街の外れで強盗なんて小さいことするじゃねーか!」


 店舗正面でホバリングするヘリには二人のポリスが乗っていた。


「マジで逃げないと! 並等さん!」


「あとちょっと……もう少しなの!」


 あーもう周りが見えなくなってるのか!


 モダさんは……


「モダさん? モダさ……ん」


 ブルン! と豪快なエンジンを鳴らした車が去って行くのが見える。


 ちくしょう裏切ったな!


 悪い大人だ! そうやって若い芽を潰していくんだ日本は!


「ミサイル発射三秒前~」


「はーい君たちおわおわりで~す」


「はい、い~ち」


 バシュ! っと言う音と共に発射されたミサイル。


「二と三は――――!?」


 迫り来るミサイル。


 逃げるモダさん。


 レジから目を離さない並等さん。


 お母さん。僕頑張って生きたよ……






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