第91話 釈放生活

 刑務所を出て西に進んでいくと公園を見つけた。


 ゲーム内時間では十六時で西日が差している。


 でも現実時間は十四時。


 時差ぼけってやつか。知らんけど。


『まさかほんじょーがモダキンと絡むとは思わなかった』

『年取ったよなモダさん。ガキの頃からプロシーン見てたから時間の経過を受けるわ』

『でもモダさん多忙だからログアウトしちゃったね』

『どうする?』


 そう。


 モダさんは打ち合わせがあるからって退室した。


 だから今、僕だけひとりぼっち。


 でも大丈夫。


 ゲームでもリアルでも一人になるのは慣れている。


 泣かないよ。


 僕は大人だもん。


「どうしましょうか。ブランコで遊びます?」


『いやきっつ』

『他のことやろうぜ』

『ギャングなんだからギャングらしいことやろうや』


「でも一人だとすぐ捕まっちゃいますよ」


『てやんでい一人がなんだ! それでも男なのかほんじょー!』

『スト鯖に参加してただプレイしましたはないだろう』

『俺なら可愛いV見つけて二人きりで遊ぶ』

『黙れ童貞』


「でも確かに所持金ないですし、お金は欲しいところです」


『なら動け』

『自分から動いて周りを巻き込むんだ』

『モダさんが戻ってきたときに驚かそうぜ』

『それだ』


「武器が欲しいですね。それもとびっきりなやつ」


『ネオアームストロングサイクロンジェット……』

『おいパクリはやめとけ』

『そこの土管立てて大きい石二つ置けばいいじゃん』


 一体なにが「いい」なのか。


『名前は?』

『ビペンニスバイペンニスアームストロング・トゥ・デスにしよう』

『いや覚えられねーよ』

『インパクトが足りない』


 よくわかんねーけど土管を立てて……と。


 石は……ないか。


 そこの草の塊を備えて……と。


『完成度高けーなオイ』

『ハイクオリティで草』


 いや、あかんだろこれ。


『ほんじょーの力作』

『バカ笑った』

『やるやんほんじょー。見直した』


 まったく子供ばっかりだ。


「はいはい直ぐ片付け――」


「あーやっと配信者さんに会えた!」


 ん?


 背後から声がする。


「やっほー誰ですかぁ?」


『あ』

『女の子の声』


「ほんじょー……さん。初めまして! VTuberの並等なみとうカナです! 先月デビューしまして、VZERO(ブイゼロ)で頑張らせてもらってます!」


 いかん。


 振り返ることができない。


 なにかこう、大事なものを失っちゃう気がするんだ。


「これ作ったんですか? もしかしてこれ……」


『詰んだ』

『グッバイほんじょー』

『君の勇姿は一生忘れない』


「あの、ビペンニスバイペンニスアームストロング・トゥ・デスですかこれ?」


 いやなんで知ってるん。


「あははは。よく気づきましたね」


「完成度高けーなこれ!」


 なんなのこの子?


 エスパーかなにかなの?


 ちょっと怖いよ?


「ところでどうしました?」


「あっいけない私ったら。事務所が私を推薦してくれてスト鯖に来れたんです。だから張り切ろーって街を探索してたんですけど誰にも会えなくて……」


 そりゃこんな郊外を彷徨ってたら誰にも会わんよ。


「だから最初に会った人についていくってリスナーさんと決めてました! だからその、一緒に行動しても……いいですか?」


 グフゥ!


 なんとも甘い声!


「ももももももももちろんいいですよ」


「ほんと!? やったー仲間が出来たよ~!」


「役職はなんでしたか?」


「私はスペースギャングです!」


 一緒か。


 そう言えばそんな名前のVがいたような。


「僕も同じです」


「じゃあ味方だー! って、あれ?」


 ぐらりとフラつく並等さんのキャラ。


「あちゃー水分切れです。お水飲まないと死んじゃいます」


「ちなみに僕は一文無しです」


「えっ?」


「えっ?」


「ほんじょーさん。私死にたくない」


「大丈夫。天国でおじいちゃんが待ってるから」


「まだ生きてますおじいちゃん!」


 倒れた並等さんのキャラが寒くないよう草をかけてあげた。


 うん。僕って優しい。


「どこ行くんですか?」


「まだ見ぬ夢を求めに」


「あの……置いていくんですか?」


 無言でダッシュ!


「あーーーー! 犯されたあああああ! ほんじょーさんに犯されたああああああ!」


 ってなんちゅうことを叫ぶんだ!?


「待って半分冗談!」


「うえーん……酷いよほんじょーさん…………」


「ジョークジョーク。ほら掴まって」


 グイッと起き上がらせる。


「えへへまさか逃げないですよねほんじょーさん。私たちはバディなんですから」


 この子。


 笑顔の奥に悪が潜んでいる。


 人気の秘訣はこれだな。


「ほら歩きますよ……ってあれ?」


 今度ぐらついたのは僕のキャラ。


「スタミナ使い切っちゃった」


「使えねーな」


「えっ!?」


「冗談ですよ~。で、私たちどうなるの?」


 どうなるんだろうね?





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