第90話 課せられた条件とは

 牢屋にて。


「いいかほんじょーくん。こういう場面では協力者を作ることが大切だ。まずポリス側に内通者を作り、事がスムーズに進むように演出するんだ」


「わかりました」


「で、そこで問題なのが……」


「――はい」


「俺たちには協力者すらいない」


 へっ?


「まいったな……もう少しあとで捕まっていればこのスマホで助けに来て貰えるのに……」


 そう言ってモダさんのキャラはスマホを手に取る。


 このゲームはスマホが装備されていて連絡先を交換した相手に電話やメッセージを送ることができる。


「あまりに高速で捕まったからお友達がいない。いや、ほんじょーくんがいるが互いにこの状況だ。クソっ」


「となると、どうすれば?」


「……打つ手なしだ。ジ・エンド」


「モダさん……」


 何か策があるかと思ったけどそれだけ?


 その……期待して損をしたというか、僕のワクワクを返してほしい気もするけど……


「さっきの子と連絡取れないのか?」


「いきなり捕まったんで難しいです」


「じゃあさっきの要領でもう一度交渉してみよう。なんならホテルに誘うんだ」


「そんなこと言ったらぶっ転がされます」


 みずきさんにも、リスナーにも、世間にも。


 僕の人生がジ・エンド。


「待て! 誰か来るぞ!」


 この人テンション高いな。


 人生楽しんでそう。


「声が聞こえて来てみれば、これはこれはあのモダさんじゃないですかぁ!」


 語尾が上がり少し煽り口調の話し方。


 この声は聞いたことあるぞ。


数葉かずはか。何しに来やがった」


 これまた大手V事務所の人気配信者。


 煽り性能に全ソースを割いたと言われるモンスター。VTuberの数葉さんだ。


「そこで何してるのモダさん。自主的に牢屋入ったんですかぁ?」


「んなわけねーだろ。ちょっと悪いことしただけだ」


「へー。んでもう一人はほんじょー……なんか聞いたことあるような」


 あぁその反応最高。


 知ってます! って言われるより誰だっけ? の方が安心する。


 期待外れ感がある方が得意です。


「初めましてほんじょーです」


「みずっちが連れてきた人?」


「そうですね」


「なるほどねー。じゃあこれで」


「待て数葉!」


「なにー?」


「話しがある。聞いてくれ」


「ここから出たいんでしょ? 知ってるよ」


「なら話しが早い。出してくれ」


「それが人に頼むときの態度ぉ?」


「お前……覚えてろよ」


 モダさんのキャラはエモートで土下座する。


「ここから出して下さい」


「それだけ? 条件とかつけよーよ」


「七回まで言うこと聞く」


 神龍かよ。


「ほらほらモダさん頑張って? もう一声欲しいよ?」


「じゃあ十回まで言うこと聞く」


 子供が親におもちゃねだるときのあれで草。


 ってかモダさんのこんな姿見たくなかった。


「ふん。お前に真の愛は見つけられない。勝手にしろ」


 モダさんはキャラの装備を外してパンイチになる。


 そして牢屋に備えられたベッドに大の字で寝転んだ。


「あははははは身体で払おうとしてるよこの人! でも男の趣味はないなぁ~」


「モ、モダさん……」


 面白いけど、すげー面白いけど笑えない。


 でも考え方は好き。


「どうした? 早くしろ」


「ムリだって! ならさ、二人の役職は?」


「僕はスペースギャングです」


「俺はAV男優だ」


「いいからモダさんそういうの!」


「ふん。探索者だ」


「なるほどね、じゃあこうしよう。二人は行動を共にすること。探索者側とギャング側の情報をポリスに横流しすること。俺が呼んだらすぐに招集すること」


「それって……」


「そう。内通者になれってことかな」


「ほんじょー。今はこいつの指示に従うんだ」


「決まりかな。じゃあこれ俺の連絡先ね」


 スマホに届く通知。


 数葉さんが追加された。


「今はバタバタしてて署に人が少ないから裏手から逃げて欲しい。落ち着いたら西にある遺跡に集合で」


 ガチャ、という音がして開かれる格子。


 手錠も外してもらい身軽になった。


「行こうほんじょーくん」


 駆け足で署から脱出するのであった。





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