第88話 リン○スタート!

 スタート地点はとても閑散としていた。


 惑星ワズルドに移住してきたていで始まるこのゲーム。


 周囲には砂漠が広がり影を作る建物がなにもないので太陽が降り注いでいる。


 遂に……来てしまった。


 始まってしまった。


 僕のスト鯖伝説がここから動き出すんだ……!



☆★☆



「なぁ兄ちゃん! ジャンプしてみよーか!」


「まだ持ってるんだろ? 俺たちもスノーモービルみたいな車乗りたいんだよね!」


「ほんとに持ってないですって!」


 路地裏。


 僕は街に着くや否や、声をかけられたのでついて行ったのだ。


 最初は仲良くできるのかな? って不安だったけど、僕の不安は別のものになったのだ。


「ほんじょー。君ならできる。ほらお金だしな?」


 カツアゲしながら優しく諭すのはゲーム配信で有名な“かきよし”さん。


 大学生の時にゲーム系の投稿を始め、その勢いで登録者八十万人を記録した人気者。


 僕もよく動画を見ていた。


「ねぇー早くぅ! リスナーがほんじょーなら良いって言ってるからやってるのに!」


 そう言うのは大手V事務所に所属するVTuberの流神るかみユズルさんだ。


 ノリの軽いお喋りで中高生に絶大な人気を誇るお喋りマシーン。


 その場のノリを汲むのが得意でどんな場面でも笑いが取れる屈指の実力者。


 でもこの人たちもスペースギャングなんだよね……


「ほんとにお金ないですって! 水買えないと倒れちゃいます!」


「いや考えてみな? ここでお金出せば俺たちに金を貸した聖人って言われるよ?」


「間違いない。ユズルに貸しを作れば何倍にも膨らませて返ってくるからさ」


「返してくれますよね……?」


「………………」


「え?」


「まぁあれだ。まだ始めたばかりだと互いに金ないじゃんか。そのうちってことで!」


「ツケといて」


 絶っっっっ体返ってこないやつじゃんこれ!


『来てみたらカツアゲされてて草』

『ほんじょーらしい』

『この二人のお願いは断れないよなぁ』


 リスナーも僕を見放したようだ。


「やべっ通報されたかも!」


「かきよし逃げよう!」


 画面の右上に警戒レベルが表示された。


 悪いことしたら市民に通報されて手配度が上がっていくやつ。


「じゃあなほんじょー! 敵対勢力になったらよろしくな!」


「また会おう!」


 まるで大泥棒のようなセリフを残して二人は狭い路地を抜けていく。


 はぁ……ほっとした。


 このゲームはキャラの疲労度や空腹度があるから、腹が減って倒れたりスタミナが減ると動けなくなり、そのまま放置すると死んでしまう。


 死ぬと所持金がその場に落ち誰かに拾われる。


 つまり死んではいけないデスゲームなのだ。


 そしたら僕はどうしようかな。


 まずは生活拠点を確保しないと――


「止まりなさい!」


「お前はもう包囲されている!」


 へっ?


「え、なにこれ?」


 入ってきた方向を見ると白と黒の車にランプがチカチカ点滅している。


「まさかほんじょーだったなんて。もう犯罪者として捕まるなんて可哀想」


「みずきの知り合い?」


「はい。前話してたほんじょーです」


「あーこの人がね! でも捕まえないと」


「ちょっとみずきさん! 一体全体これはなんですか!? 武器なんか構えて!」


「市民から通報があったの。怪しい取引してるんじゃないかって」


「いや僕は被害者!」


「嘘ついてもムダ。現行犯逮捕!」


 銃口が一瞬光ると、レーザー銃から放たれた光線は僕の胴体を貫いた。


「ええええええええ!」


「確保!」


 瞬く間に手錠をかけられる僕のキャラ。


 違う僕じゃない! 犯人はあの二人だ!


「違うんですよみずきさん! 犯人はかきよしさんと流神ユズルさんですって!」


「犯人はそうやってウソをつくの」


 ダメだこの人! 役に入りきってる!


「犯人確保。これから署に戻ります」


 あぁ……


 どうしてこうなっちゃうんだろ……





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