第84話 終戦

「お、終わったのか……?」


 画面端の数字は目標の一千万を越えている。


「ほんじょー、私たちの勝ちだね」


「どうやらそのようですね」


 応援に来てくれた二人は静かに呟く。


『俺たちの勝ちよ』

『炎上がなんぼのもんじゃい』

『いやしかし派手に燃えたな』

『コメントが多かっただけ。肯定派の意見もたくさんあった』


 言われてみればあかぼんが連れてきた荒らし連中は水を得た魚のように飛び跳ねていたけど、今は静かになった。


「結局、炎上なんて触れなきゃ収まる。触れてるから燃えるだけ」


『みずきちゃんの言うとおり』

『みずきちゃんたちが来なかったら、ほんじょー一人では背負いきれなかった』

『つまり俺のおかげ』

『黙れ童貞』


「ううん。これはみんなで手にした勝利」


「そうです。ほんじょーさんも頑張ってましたし、みずきちゃんがSNSや自分の配信でたくさん呼びかけたから多くの人が集まりました。ここにいないAmaterasuメンバーも奮闘してたみたいですし」


「そう……ですね」


 言い換えれば、僕単体ではどうにもできなかったわけだ。


 力不足を痛感する。


「感傷に浸りたいとこですが、僕は行かなきゃいけない場所があるので」


「あかぼんのとこでしょ? 最後は自分でやるんだよ」


「二人ともお疲れ様でした。時間も時間なのでここで失礼します」


 効果音と共に二人は退室する。


『行こうぜ。ほんじょー』

『あかぼんはまだ配信してる』

『ほんじょーさん。またほんじょーさんの力で炎上から救いましたね』


「あはは、今回は僕役立たずです」


『そんなことないです。すごくカッコ良かったです』

『俺がカッコ良かったって?』

『いや俺やろ』

『失せろ。俺だ』

『はい。みなさんの力もあります』

『マイエンジェル!』

『結婚してくれ!』

『式場はハワイで』


「じゃあ、行ってきます」


 あかぼん、で検索っと。


 確かにまだやってるけど、いつもより同接が少ないな。


「お前ら遊んでただろ! チー牛のくせにビビりやがって!」


 わお。怒ってる。


 しゃーない。


『やあ』


「このIDはほんじょーか!」


『最後に一言いいですか?』


「どっか行けよ! お前は永久BANだから!」


『もうこんなことは辞めて欲しい。誰も喜ばないんだ。一瞬の楽しさだけで人を傷つけるのはよくない』

『はー負けじゃんこれ。思ったよりあかぼん弱いじゃん』

『もっとやるやつだと思ってたのに』

『つまんね』

『煽るだけ煽って負けんなよ』

『あかぼん引退な』


「うるせー黙ってろチー牛ども! 使えないのはお前だろ社会のクズ!」


『お前だって大学受験失敗して浪人してんだろ?』

『やっぱ一過性の効果しかないよね炎上系って』

『訴えられないだけまし。お前はやり方次第でムショに行っててもおかしくない』


 ……こりゃ完全に手の平返されたね。


 そりゃこの配信スタイルは見切られるの早いよ。


 考えてみて欲しい。炎上・煽りを売りにして活躍し続けてる人なんてどこにもいないんだから。


「むしゃくしゃしてやっただけだから! お前らも楽しんでたろ!」


『あかぼんさん。あなたの言う“決着”はつきました。僕はもうあなたと関わらないですし、あなたはこの活動を控えてほしい。ではさようなら』


 退室直前に何か言われた気がしたが、僕の耳は都合がいいので何も聞こえなかった。


 さて、向こうの配信に戻るか。


『おかえり』

『どうだった?』


「なにもありませんよ。何も、ありません」


『そっか』

『よーやったよほんじょー』

『おい、新宮領レオがほんじょーに語りかけてるぞ!』


「えっ……ほんとだ」


 ミュート解除すると確かに僕を呼ぶ声がした。


「あれれーほんじょーさーん」


『はい』


「来ましたね。どうでしたか俺のお店は」


『たくさん勉強させて頂きました』


「俺もあなたから勉強しましたよ。真那月の依頼の件、これで完了とします」


『えっ』


「真那月はずっと裏で仕事してました。驚きましたよ、裏方作業なんてまずやることのない真那月が自分からやりたいって言うんですから」


『そうだったんですか』


「努力とは無縁の生き方をしていた真那月にとって、今回の件は彼女を成長させる一歩となりました。これもほんじょーさんの手腕ですね」


『いえいえ』


「ご謙遜を。おかげでイベントも成功です。新規のお客様もたくさんいらしたし、うちの連中は意地を見せてくれました」


『それは良かったです』


「あと最後に。実は、予めあかぼんのことを知っていまして」


 ……なんだ?


「真那月とA.CALLのために利用させてもらいました。仕組んだわけではないです。炎上を広告として利用し、名前を売るために、ね」


『……はい』


「逆境から始まった方が燃えるのでね。ここにほんじょーさんの力が加われば余裕っす」


『なんと言えばいいのか』


「いいんですよあなたはそれで。ぜひ今度うちのお店に遊びに来て下さい。では失礼します」


 喧噪のなか、新宮領は深くお辞儀しそのまま配信が終わる。


『お店に遊びに来いってことは、ほんじょーはホモなのか?』

『だから女の子に手を出さないんだ』

『合点承知』

『ほ、ほんじょーさん……』


 いやいやみなさん、着眼点そこなの?


 終わった感想を言う場面でしょ今は。


「なにを言ってるんですか。女の子が好きに決まってます」


『キャーケダモノ! 襲われる!』

『やらないか?』

『ケツ貸そうか?』

『あの……下ネタはちょっと……』

『お前らエンジェルを困らせるんじゃねーぞ』

『とりあえず結婚してくれないか?』

『お前は4ね』


 何気ない配信。


 何気ないコメント。


 僕が求めているのはいつもの日常。


 そう、これからもスタンダード。


 配信に来てくれた君に約束する!






 あとがき


 以上でこの章は終わりです。


 休止期間もあったのでめちゃくちゃ時間かかりましたね。


 カクヨムコン期間中はバリバリ投稿していくのでこれからも応援をお願いします。


 次回は日常系を挟むつもりでしたが、ランキングに苦戦しているので「ストリーマー鯖編」に日常部分を組み込んで作りました。


 次は重くならず、今までみたいにほんじょーがイジられながらめちゃくちゃするおもしろおかしい話しになりますので、こうご期待。


 では。




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