第83話 記念のお酒

「多数決……」


 僕はボソッと呟く。


「わかりやすくていいんじゃない? 配信っぽいし」


「でもアンチの方が多そうに見えます」


 確かに藤井さんの言うとおりだ。


 間違いなくアンチのが多い。


「じゃあ多数決取りましょう。私が残りの金額を払うかどうか。はい、スタート」


 って急に始まった!?


「みなさんもちろん『はい』を選んで下さいね!」


「私のリスナーもお願いね」


「藤井リスナーもお願いします!」


 今の同接は三千人弱。


 思えばいきなりここまで同接増やすのは凄い。


 アンチが湧いたとはいえポテンシャルが高すぎる。


 ある意味、いい広告になっている。


「結果出た?」


 レイコさんは横目でユウトさんを睨む。


「はい。出ましたね。表示させます」


 うわ緊張する。


 どうか……お願い……!


「えー、これは面白い。ほぼ五分ですよレイコさん」


 え?


「五分なの? なんだつまんなーい」


「もう一回やります?」


「賛成派の意見を聞かせて」


 意見?


 どうして?


「あっこうしましょう。千円以上のスパチャに答えるわ。配信らしく……ね」


 千円って結構高いけど……


 しょうがないここは僕が先陣切らないと。


『\1000 この配信はレイコさんにかかっているからです』


「そう。ありがとう」


 ってそれだけかよ! バッサリしすぎ……


『\1000 とても素敵な女性だと思います。私はこの配信のお手伝いに来ているので、ぜひともレイコさんのお力で達成するところが見たいです』


 これは藤井さんのスパチャ。


 うん、これが模範解答ね。


「これ女の子? やだー嬉しー!」


『\1000 レイコさんのブランドよく買っています。ここまで拝見させて頂きましたが、レイコさんにはぜひご助力をお願いします。カッコいい姿を見せて下さい』


 これはみずきさん。


「また女の子だ! えー嬉しいよ~。新作がもうすぐ出るから買ってね~」


 嬉しそうに画面に手を振るレイコさん。


 感触は良さそうだ。


『\1000 スリーサイズを教えて下さい』


 終わった。


 絶対僕のリスナーだ。


「なに私のボディが気になるの坊や? いいわよ教えてあげるから株をたくさん買いなさい。そのうち教えてあげるから」


 いや怒らないんかい!


『\1000 好きなタイプを教えて下さい』


「イケメン。以上」


 だろうな。


 いけね。心の声が。


「次は反対意見ね」


 次はアンチ共の番か。


 ちょっと怖いな……


『\1000 なんでホストなんかに金落とすの? 見返りなくない? その金を従業員に還元したら? 頭悪いの?』


 いやストレートだなこれ。


「そうね。好きなものにお金を使うってのは至極当然なことよ。対象が人か物かの違いで自分が満足したいだけ。男だって好きな子にお金落とすでしょ? 根本は同じなの」


 意外と冷静な返し。


『\1000 いやだから会社やってるならその金を社員に還元しなよ。まさか経費で飲んでるの?』


「失礼ね自腹切ってるわよ。このお金はがむしゃらに働いてた平社員時代の遺産よ」


 レイコさんは続けて話す。


「新卒で入ったアパレルブランドのショップ店員時代。同期や先輩に負けたくなくて毎日仕事一本で生きていた。その時は間違いなく女を捨てていたわね。結果残しても周りには誰もいなくて寂しさを埋めるためにホストに行ったら新宮領レオに出会ったわけ」


「代表が新宿にいた時ですか?」


「そう。そしたら、レオも私と似たことしてたの。結果のために手段を選ばないけど、人が去ってしまうって。そこから意気投合してレオを支えるようになったけど……」


「代表が蒸発しましたね」


「……あの時はどうしようかと思った。でも思い出を忘れかけた頃にこのお店がオープンしたから、またレオに会えるって……」


「レイコさん。ここは代表にとって命よりも大事なクラブです。ルイ十三世をお願いできませんか?」


「ルイ……あの時、レオを一位に押し上げるために頼んだ記念のお酒。そう言えば久しく飲んでいないわね。ユウト、これからレオに代わってあなたが相手をしてくれるの?」


「はい」


「そう。じゃあ記念にお願いしようかしら」


 ルイ十三世がコールされるとお店はどんちゃん騒ぎ。


 そして画面の金額は一千万を越えた。




次回でこの章は終わります。




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