第82話 多数決で決めましょう

「ちょっと~~~~~もう酔ったの~~~?」


「レイコさん飲み過ぎですよ……」


「飲まずになんかいられないしょ! 次、どんぺりごーるど!」


「呂律回ってないですよ、レイコさん」


 レイコという女性は話すより飲むタイプで次々と注文したお酒を胃袋に流し込んでいく。


 しかも一回一回の額が凄い。


 気づいたら七百万を越えていた。


「なによ~~。あ、また重い女って思ったでしょ?」


「またっていうか初めて聞きました」


「レオから聞いてないんだふ~~~ん」


 なんだろう。


 拗ねたのかな。


 それとも酔うと泣くタイプ?


「二十回目の失恋したからレオが慰めてくれるっていうから来たのに。つまんなーい」


 レイコさんはグラスをくるくる回す。


 なんか構って欲しそうな様子だ。


「レイコさんでも振られることがあるんですね。ちょっと元気でました」


「……だって、だってさ。付き合ったらちょっとしたことでも記念だと思ってお祝いしちゃうじゃん! 毎週パーティーに誘ったら重いってどいういうこと!?」


 うん。


 うん。


 なんとなくこの人の素性がわかった気がする。


「好きな人と一緒にいたいからお仕事頑張ってさ、そのご褒美だと思えばおっさんの相手だってできるのに……」


「そう言えば」


 隣に座るユウトさんが切り出す。


「レイコさんってお仕事なにしてるんですか?」


「アパレルよ。そんなことも聞いてないの?」


「へぇ~なんか納得です。すっごいお洒落ですもんね」


「そうでしょ。このドレスだって私のブランド。ピアスもそう」


 ほほう。アパレルの社長か。


「でもまだ小さいから規模を大きくしないと。毎日営業頑張ってるし取引先に接待も行ってる。うちの若い子が路頭に迷わないように私が頑張らなくちゃ」


 なんか、じーんとした。


 凄い頑張ってるし責任感の強い人。


 僕とはまったく次元で生きてる。


「やっぱりそうだ。この人見たことあります」


 なにかに気づいたのか藤井さんが口を開いた。


「女の子向けのアパレルブランドを展開してる二条礼子さんです。よく買う雑誌に載ってました」


「あ、私も聞いたことある」


「二人とも知ってるんですね」


 いや、僕が知ってたらめっちゃキモいな。この内容だと。


「すっごいお洒落なアイテムが多くて値段もリーズナブルなんです」


「うん。部屋着が好きでよく買ってる」


「へー」


「興味なさそう」


「そ、そりゃ」


「こういう話題に乗れないようじゃ……ほんじょーもまだまだだね」


 ここのブランドは若い子に人気が高くて特にいちご柄のパンツが……とか言えれば良かったってことね。


 うんムリ。


「ねえユウト。失恋した女がいるんだから、慰めてみなさいよ」


「いきなりですね」


「できないの?」


「レイコ」


 えっ両肩に手置いたよ! これキスする時のやつじゃん!


 ってアホか。僕って純情。


「過去の別れは未来への新しい幸せへの扉を開く一歩に過ぎない。君の美しさは衰えず、新たな愛が君を照らします」


「……はい。結婚して下さい」


 いや草。


「空いた穴は俺が埋める。今日だけは過去を忘れて俺を見て欲しい」


「式場予約しました」


 んな単純な。


「結婚の前に一つお願いがある。あと三百万で今日の目標達成なんだ」


 さらっと現実に戻すことを言うユウトさん。


 やはりこの人はホストだ。


「それとこれは話しが別よ」


 いや素に戻ってて更に草。


 この人の情緒どうなってんの。


「少しはやるじゃない。惚れかけたけど残念ね」


「そこをなんとか」


「今も配信してる?」


「してますよ」


「なら視聴者に聞いてから決めましょ。私が言うことに対して多数決で決めます」


 おっ? それで行ける感じ?


「私を愛せる人は何人?」


 画面には多数決のポップアップが出る。


 選択肢はイエス・ノーか。


 もちろんイエスだ。


「イエスが三千人。ノーはいませんね」


「そう。次は私の重い愛を正面から受け取れる人は?」


「イエス二千人。ノーは千人」


 あれ? 減った?


「いかなる時でも愛情表現ができる人は? 他人が大勢見ててもチューできる人は?」


「イエス千人。ノーが二千人」


 ん? これは?


「毎日が記念日だと思ってお祝いできる人。毎週ディ○ニー行ける人。私が落ち込んだらすぐ来てくれる人。私の好きなところを百個言える人は?」


「イエス三十人、ノーがたくさん」


 これは質問が悪いよ!


「そう。やっぱり男ってそういう生き物なのね。ステータスだと思って私に近づいてくる忌まわしき生物だわ」


「質問が悪いですよレイコさん……」


「なによ。事実じゃない。これ飲んだら帰るから」


『レイコさん! あなたは素敵な人です! その辺の男では扱えないほど素晴らしい人間なだけなんです! ここにいるみんな、そう思っていますから!』


 僕は即座にフォローに入る。


『レイコさん! 僕をあなたのヒモにしてください!』

『叩かれたら喜びます!』

『罵ってください!』

『ヒールで踏んでください!』

『大人の、熱い時間を一緒に過ごしましょう!』

『黙れ童貞』


 リスナーは雰囲気を崩しにかかる。


『こんなバカ女いらねwww』

『股開いてろよwww』

『芸人の食い物にされてんだろwww』


 アンチは煽りにかかる。


「面白いこと言うじゃない。じゃあ最後に、このお店に尽くす価値があるか多数決取りましょう」





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