第81話 コメント欄より愛をこめて

「どうやらラスボス登場みたいですね」


 僕はモニターを見つめながら静かに呟く。


『相当な金持ちなんじゃね?』

『だろうな。扱いが違うと思う』

『新宮領のお客さんっぽいけど他の人に任せるんだ』

『よほど期待してるんじゃねそのホストに』

『いいな俺を養ってほしい』

『お前じゃムリ』


「ほんじょー。来たみたい」


 大物登場のせいもあってか、対応中のホスト含めほぼ総動員と見られる人員が入り口ドアに並ぶ。


 マジでテレビ見てるみたい。


 ドキドキしてきた。どんな人が来るんだろう。


「レイコ様いらっしゃいました!!!」


 一人のホストのかけ声でみな片膝ついた。


「あらかしこまっちゃって。ちょっと埃っぽくないここ?」


 ドアが開くと真っ赤なドレスを見に包んだ女性が現れる。


 真っ黒な髪は腰まで伸びていてはライトでキラリと艶光り。


 まさかほんとに女優? たまげるほど綺麗だし僕も養ってほしいです。


「レイコさん。ご無沙汰しております」


 スクッと立ち上がるのは新宮領レオ。


「……レオ。来て欲しいって言うから来たのに、随分手荒な歓迎じゃなくて?」


「とんでもございません。レイコさんがいらしたので一同感謝でいっぱいでございます」


 普段軽そうな口調の新宮領がすごいかしこまってる。


 なんか僕まで緊張してきた。


「そう」


 レイコという女性は短く応えた。


 そして新宮領は手招きをしてから奥に歩き出す。


 そこにカメラもついていく。


「すっっごい綺麗な人……」


「オーラが凄い」


 こちらの女性陣は驚愕と言った様子の声を漏らした。


 大丈夫です。あなたがた二人も充分綺麗な女性です。


 新宮領は専用席にまで案内すると二人がけソファに女性を座らせた。


「あら。レオが座るんじゃないの?」


「僕は現場を引退した身です。これからはウチのエースがお相手させていただきますので」


 顎で指示を出すと金髪センター分けのホストが一言添えてからソファ横に立つ。


「レイコさん初めまして。A.CALLナンバーワンのユウト、と申します」


「……そう。残念ね」


 くぅぅぅ視線が鋭い。


 なんか不機嫌なのが伝わってくる……


「お隣よろしいですか?」


「勝手になさい」


「失礼します」


 が、頑張れユウトさん。


 僕はモニター越しでも逃げ出したくなる圧を感じるよ。


「私たちはこの人から……お金を使って貰うんですよね?」


「そう、なりますね」


「ユイ。ほんじょーが全て解決してくれるから」


「みずきさんそうやって……!」


「ふーん怖いんだ?」


 はい。


「怖いですよ!」


「怖い物しらずがほんじょーの持ち味なのにねぇ~。お姉さんがっかり」


 そんなこと言ったって怖いもんは怖い。


「ほんじょーさん大丈夫です! モニター越しなら顔はわからないし私たちはコメントでお手伝いするだけですから!」


「その言い方だと現場に僕がいたら何も出来ないって聞こえてきますが」


「否定できない」


 なに? この二人は敵なの?


「ほらカメラ寄った。始まるよ決戦が」



☆★☆



「ユウト、って言ったかしら」


「はい」


「いつからレオの下でやってるの?」


「かれこれ二年経ちました」


「二年も? 珍しいじゃない潰れないでいれるなんて。“同族潰しのレオ”は牙が抜けたのかしら」


「いえ。まだまだ現役ですよ代表は」


「私と会った当初はギラついてたし結果を残すために手段を選ばない男だった。もちろん他人への要求も高く厳しい。だからレオの下についたホストは一ヶ月持たずやめていく。コミュニケーションにも問題があったから所属先を転々として、遂にはオーナーになったけど借金まみれで私が助けなかったらどうなっていたことか」


「そんな過去があったんですね」


「イヤだ知らないの?」


「代表は過去を語らない方ですから」


「……まぁそのレオに二年ついていけたんだから、少しはデキそうな男ってこと……か」


 あかん。つい聞き入っちゃう。


「今日ってイベントデーなんでしょ? なんかない? 退屈なんだけど」


「本日は配信でも告知をしております。どうぞ、ご覧になって下さい」


 急に寄るカメラ。


「ほんじょーさん! チャンスです!」


「えっ僕!?」


 急に振られたから準備が……!


 ええっと、挨拶?


 こんにちはとか?


 いや絶対キレられる。


 挨拶……挨拶……あい……


『愛してます』


 って送っちゃったよ!


「なにこの子……愛してるってさ。男の子?」


『はい』


「私に惚れたの?」


 ……やっべえぞこの質問。


 間違えば致死量のダメージがふりかかる気がする。


「ほんじょー」


「ほんじょーさん?」


 返事できねえ!


 今は任務遂行に集中だ!


『はい』


「ぷっくっくっく素直ね坊や」


『いやブサイクやろwww』


 ここであかぼんかよこの野郎!!!


「えーブサイクだって傷ついちゃった~。お姉さんが楽しいこと教えてあげようと思ったのに」


『ぜひ』


 これは心の叫び。


「ほんじょー。待っててそっちに行くから」


「ほんじょーさん。命には限りがあります」


 これは、殺気!?


「ユウト。シャンパンちょうだい」


「かしこまりました」


 あっ注文だ。


 残すは一時間。


 どこまでやりきれるか……覚悟を決めよう。


 大事な何かを失うかも知れないけど、ここからは遊びなしだ。




 やっぱり失うのはイヤです。





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