第80話 緊急告知
「ありがとうございましたー!!」
カメラは再度店内に。
退店するお客さんに深々と礼をするホスト。
しかしその表情は険しい。
「代表すみません……」
「まぁしゃーないっす。君の実力なら今ので精一杯です」
きっと上手くいかなかったんだな。
にしても言葉が強いような……
「次のあてはあるんすか?」
「いえ、今ので予約は最後です」
「ふーんそうですか。ご苦労様」
その言葉を聞いてホストは袖で目元を拭った。
「ちょっと気の毒ですね……」
低めのテンションで言うのは藤井さん。
「でもこれが勝負の世界だから仕方ないとも思える。私たちだってそう」
みずきさんはいつも通り語る。
確かに僕たちも一緒だ。
配信始めた頃は一人しかいないリスナーにフォローしてもらおうと必死だった。
もちろん満足させることができなくて数字が伸び悩んだ。
「随分閑散としてきましたね。あと一時間なのにこれだと……」
画面端に映る数字は五百万。
金額は折り返しまで来たけど時間が足りない。
そんなこんなを話しているとカメラは新宮領レオに寄った。
「いやー苦戦ですねー。大トリを使わなくてもいけるかと思ってたんですけどね~告知が弱かったかな~」
バツが悪そうにポリポリと頭を掻く新宮領。
そこに一人のホストが寄ってくる。
「代表! レイコさんは間もなく到着されるみたいです!」
「おおっ朗報っすね。VIP席の準備っす」
レイコさんって言ってたな。
大トリがなんとかって言ってたし、ラスボス登場?
「凄い人が来るみたいですね」
「大企業令嬢だったりして」
「VIP席って言ってたし芸能界の大物かもしれないですよ?」
「女優とか?」
「ユイ。そんな人が特定されやすい場所に来ない」
「えへへですよね~」
ちょっと期待してた感が伝わるのは藤井さん。
たぶんみずきさんが言う令嬢とかだろう。
カメラは部屋の奥に用意されているカーテンで仕切られたスペースに進む。
そのカーテンは半透明っていうか目を凝らせば奥が覗ける仕様になっていて、二人がけのソファが一つと、数人が吸われるソファが二つ並んでいる。
でも明らかに二人がけのソファは高そうだ。
ワイン色でシンプルな装飾。
ハリウッドスターの家にありそうな感じ。
「私の部屋にもこういう感じにしたいかも」
「みずきちゃんのお家はシンプルで大人な雰囲気があって羨ましいです」
「ユイの家はちょっと子供っぽいから今度コーディネートしたげる」
「むぅ子供っぽくありません」
「人形とか隠せばいいのに」
「ムリです可愛いのに!」
「あとピンクとか多い」
「好きな色なんですっ!」
「もっと落ち着いた色を選ぶべき。下着……」
「言っちゃダメです!」
いけね。
不思議と想像してた。
部屋じゃなくて下着ね。
「お二人とも集中しましょう。荒らしが減って応援コメントが増えてきたんですから、僕たちがふざけたらいけません」
そう、気づけばアンチがかなり減っている。
というかあかぼんが静かになった。
逃げたんだろうな。
炎上が好きな人はみなそうだ。面白くなくなったら逃げるしかない。
「代表! 到着されました!」
いつの間にか高そうなソファに腰掛けていた新宮領。
その言葉を聞いて立ち上がる。
「来たっすね。ユウトはいるっすか?」
誰か呼んだな。
「はい!」
「今日は君と心中することにしました。覚悟はいいですね」
「……レイコ嬢ってずっと代表を追いかけている方ですよね。こんな大役、俺でいいんですか?」
「俺はもう経営者です。いつまでもお店にはいられない。いつかは誰かを紹介しないとなって思ってたとこです。いいですか? このお店を背負うのはユウトです。A.CALLがオープンしてからずっと首位を守り続けた君に俺は懸けています。残りの五百万、さくっと決めて下さい」
新宮領は続けて話す。
「コメント欄のみなさん。あなた方もここからが正念場です。彼女はとても神経質で、気性の荒い人物です。配信のことも話しているので必ず食いついてきます。ここで彼女を帰してしまったら間違いなくイベントは失敗に終わります。では、よろしくどうぞ」
えええーそんな大事なこと突然言うなよ!!
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