第78話 たまには私たちを頼ってね

「――っていうことでみずきさん並びにAmaterasuの人が来てくれることになりました!」


『おおっ!』

『そっちのリスナー呼んで荒らしを浄化しようぜ!』

『気づいたわ。ほんじょーの配信は女の子がいたほうが盛り上がるしシナジーを感じる』

『あの、私も女ですけど……』

『もちろん君の力は大事だよ』

『これからも守るから』

『これ、俺のSNSね。あとで連絡欲しいな』

『草』


 なんだかこう、凄く身体が軽くなった気がする。


 つっかえてたものが出たって言うか、重い荷物を下ろした時の感覚に似てる。


 まだやれる。


 これからだ!


「相変わらず凄い荒らしコメントが続いていますが、みなさんここからですよ」


『おうよ』

『バイブス上げてけ』

『ほんじょー! 藤井ユイもこれから加勢するってさ!』


「藤井さん……僕は藤井さんにも感謝しています。きっかけは間違いなく彼女で、今の立ち位置はあの件に関わったからだと自負しています」


『彼女って言うのやめろよカス』

『おおん? やるんかこら?』

『拳で語ろうやほんじょー』


 リスナーのみんな……


 時々、暴徒になりかけるから味方なのか敵なのかわからなくなるよ……


 ちょいちょい拳で語り合おうとする人もいるけど、五歳から七歳までなら喧嘩買います。


 ウソです。


『おいホスト側のコメント欄見ろよ!!!』

『なになに』

『おっ来たな』


 おびただしい荒らしコメントの中に少数ではあるが擁護派の意見が交ざり始めた。


『荒らすのやめれや』

『いい加減しろよ』

『7ちゃんねらー帰れ』

『お前らは釣られてきただけ。ここは荒らし板じゃねーから』


 恐らく配信を終えたVたちがやってきたんだ。


『こんばんは悪僂みずきです』


「みずきさん……!」


『ほんとに来た!』

『マジだすげー!』


「僕もやらないと! 『ほんじょーです。みなさんありがとうございます』……と」


 景気よくエンターを叩き文字群の中に僕のコメントが映し出される。


『おおっほんじょー助けに来たぜ!』

『みずきちゃんを変えてくれたほんじょーには感謝しかない』

『ほんじょー。私が来たからもう大丈夫』


 このコメントを見た荒らし連中はすぐに噛みついた。


『あん? 誰だよコイツら』

『あれだよこいつVの女だ』

『Vの女ですけど? 君、どこの誰?』


 みずきさんがコメントに食いつくと少し怖い……


『なに、こういう場所なの?』

『こういう場所って?』


 みずきさんは止まらず続ける。


『荒らして良いって聞いたから来たのに、気持ちよくなれないじゃん』

『荒らしていい配信なんてどこにもない』

『かぁー正論パンチ女か。キモすぎて草』

『キモいかどうかは私に会ってから決めてくれる?』


 食いつくなぁ……僕は会いましたけどね☆


『冷めたわ。他いこーぜ』

『そうしてくれる? ここは応援する場所なの』


 コメントの流れが早いからスクロールして止めながら見る。


 そして同接が五十人減る。


『みずきちゃんかっこいい』

『俺たちも続こうや。荒らしてる連中は帰れ』

『そうだどっか行け。場違いなんだよ』

『おいおい。女が来た途端急に元気になったな。息子の方も元気になったのか?』

『うるせーよあかぼん。お前もどっか行けよ』

『黙れ童貞』

『あかぼん消えな。お前じゃどうにもならん』


 童貞職人が初めて部外者に攻撃してる! これはレアだ!


『藤井ユイです。こういうの苦手ですけど精一杯頑張ります』

『「キタ――(゚∀゚)――!!」』

『ユイちゃんや!』

『反撃反撃!』


 思い出した。


 荒らす人の心理はいくつかあるけど一番心に残ったのは「権威の最小化」だ。


 現実で明確化されている権威が軽視され相手を同等とみなすことで傷つける発言であったとしても、咎められる恐れがないから言いたいことを軽々しく言ってしまう。


 だと言うのに言い返されると途端に興味が失せ対象が移る。


 つまり同等ではなくなったときに、それは止まる。


 大物芸能人が普段神格化されているのに、炎上した途端多方面から好き勝手言われるのはこれが原因なんだ。


 だから炎上に怒って「ふざけんな」と返すのではなく、正しく誠意を持って対応することが一番の薬になる。


 だから僕は、正しい言葉で冷静に言い返す。


 僕は勝つよ。これからも。





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