第77話 助けにきてあげたんだからね

 どうしよう。


 余りにも荒らしが増えてしまった。


 同接は留まることを知らずその数字はどんどん膨らんでいる。


 僕自身、何百、何千まで増えたリスナーを相手にしたことがない。


 コラボで増えたことはもちろんあるけど、単独ではない。


「もう、コメント欄が火の車ですね……」


『本当の荒らし集団ってここまでするんだな』

『そのうち特定班まで来そう』

『こんなん配信どころじゃねーよ』

『これさ、今は向こうの配信が荒れてるけどほんじょーのリンクまで貼られたらまずくね?』


「僕の配信が荒れる分は構いません。でもこの状況だとスパチャしようと思う人なんて皆無です」


『まぁ、まずいないわな』

『もうすぐ二時になる』

『あと二時間』

『売上げ半分も行ってないじゃん』

『そもそもこのホストクラブって人気なの?』

『最近出来たんだからまだそこまで人気じゃないんじゃない?』


 ……打つ手がない。


 荒らし行為する人の心理を見誤っていたのは僕自身だ。


 荒らしが好きな人はその配信者の反応を楽しんだり、遊び半分でみんなでやるのが楽しいからと聞く。


 結局は匿名性を利用して日頃のストレス、鬱憤を他者にぶつけているだけだ。


 それをするのはネットの世界がちょうどいいってわけ。


 でも僕はそうやって小さな失敗で居場所まで奪われる人をたくさん見てきた。


 再起したくてもアンチに叩かれ戻ることができない。


 だからこの活動を始めたんだ。


 僕は……


「♪♪♪」


 通知音に気づきスマホを手にする。


 誰だろう……DMか。


 相手はみずきさんって出てる。


 ……みずきさん?


『ほんじょー。通話上がっていい?』


 みずきさん!!!?!??!!?


「えーっとみなさん。これからみずきさんが通話に上がります」


『え、あのみずきちゃん?』

『マジかよ!』

『助けてくれるんじゃね!』


 僕は即座に通話ソフトを起動しコールボタンをクリック。


 数秒呼び出したあと、少しやる気のなさそうで「めんどくさい」って様子が窺える返事が届いた。


「だらしない」


「こんばんは……」


「だらしないって言ってるの」


「……申し訳ございません」


「ほんじょーがここで負けたら、助けられた私たちはなんなの? ってなるじゃん」


「でも……」


「でもって言わない。だっても禁止」


「はい……」


「いい? これからAmaterasuのメンバーが配信終わり次第助けに来てくれるから」


「え!?」


「今回だけ特別だから」


「みずきさん、この件は伝えましたけど手助け不要って言ったじゃないですか!? だって炎上にAmaterasuが関わること自体マイナスイメージがつくかもしれないのに!!」


「だって禁止。罰金として赤スパね」


「うぅ……」


「聞いて。私が独断で事務所に呼びかけた。今のAmaterasuが持つ人気は正直ほんじょーの存在が大きい。ユイとのコラボイベントに始まり、大成功に終わったバレンタインデーイベントもAmaterasu躍進に貢献してる。だから事務所としてもほんじょーに協力できるなら方法はいとわない」


 そこまで言われると照れちゃうな……


「今をときめく人気美少女VTuberがたくさん集まるから、ちゃんとついてきて。もっと盛り上げるよ」


「美少女……?」


 ドン! と、台パンする音が聞こえた。


『おお総力戦だ!』

『すげーことになってきたじゃん!』

『まだまだこっからやぞ!』

『久しぶりにみずきちゃんの声聞いた。癒やされる。ほぼいきかけた』

『黙れ童貞』


「そうですよね……僕がヘコんじゃダメです。見てろよあかぼん、うおおお行くぞおおおお!」

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