第74話 開戦
「みんな、準備できた?」
時刻は二十一時五十五分。
僕はいつものデスクに鎮座しその時を待っている。
自然とマウスを握る手に力が入る。
絶対に負けられない戦いだ。
いや、擁護に勝ち負けはない。
でもあかぼんには負けたくない。
もし負けてしまったら、大事な何かを失う気がするんだ。
『来たぜ』
『SNSでたくさん呼びかけてきた』
『勝とうぜ』
『勝ったら真那月に俺を紹介して』
『黙れ童貞』
ふふっ。みんなはいつも通りだな。安心した。
「相手は強大です。特に炎上すれば野次馬がこぞって集まるから、どうやっても多勢に無勢になると思います。でもみなさんがいればどうにでもなるって信じてますから」
『任せとけって。へっちゃらさ』
『いやでもさ、ホストクラブだから男がメインに映すんだろ? 最後まで元気でいられるかな……』
『気が滅入らないよう俺のオカズリストを紹介しよか?』
『一人でやってろ』
『ほんじょーさんこんばんは。私は何もできませんが最後まで応援します』
「あははありがとうございます。僕も最後まで諦めません」
『マイエンジェル!!!』
『君も守るよ……絶対に傷つけさせない』
『この戦いが終わったら故郷で結婚しよう』
『死ぬ時のセリフで草』
『死んで、どうぞ』
なんだかんだリスナーはついてきてくれる。
頼れる味方たちだ。
『ところで君のスリーサイズを聞いてなかったな……』
『うわキモ』
『キモいとか言うな』
『舐めてたら死ぬぜ? 俺が』
『切腹して、どうぞ』
前言撤回。頼れなそう。
「……間もなくですね」
五十九分。
さぁ、行こう。
「いらっしゃいませ! A.CALL(ア・コール)へようこそ!」
暗転していたモニターが光り輝く。
そこには色んな色のスーツを着た男性たちが深々とお辞儀している。
『うおおおおすげええええ』
『待ってマヂヤバい。どれくらいヤバいかと言うとマヂヤバい』
カメラが映すのは入り口付近立つ男性たちと店内の様子。
部屋の各所はライトで照らされ、まるでゲーム部屋のようだ。
入り口と見られるドアが開くと露出度の高い女性が入ってきた。
『おほおおおおお』
『ちょー可愛い』
『セクシー女優とかかな』
『ちょっとトイレに……』
『シコリに行ってて草』
「うわ迫力凄いですね。真っ赤な絨毯に高そうなソファーがいくつも並んでます」
『テレビで見るのと一緒だな~』
『なぁお前らよ気づかないか? あかぼんが現れないんだよ』
――!
いけね。つい見入っちゃってた。
始まって五分。確かにあかぼんは現れない。
コメント欄は落ち着いている。むしろスパチャする人が多いくらいだ。
『もしかしてほんじょーの配信に来るのかな?』
「どうでしょうか……来るなら向こうの配信だと思いますが」
『まぁ、時を伺ってるんだろ』
『あいつが来る前に盛り上げようぜ』
「そうですね。僕たちも加勢しましょう」
僕はそう告げてからもう一枚のモニターにマウスカーソルを移動させる。
そしてコメント入力するためにバーをクリック。
ほんじょーです。応援に来ました……と。
『ほんじょーがコメントしたら運営が反応したぞ!』
『感謝します、だって』
最後までお供します。頑張りましょう……と。
まだ夜は始まったばかりだ。
しまっていこう。
☆★☆
あれから一時間が経過した。
このお店は朝四時に閉店する。
目標の一千万円を限られた時間で達成するわけだが、見た感じ客入りは良さそう。
記念イベントもやってるみたいで、でっかいケーキや派手なシャンパンタワーがこれでもかと並ぶ。
カメラは各席を回りつつホストは自己紹介、お客さんはリスナーからの質問に答えたりしていた。
『凄く綺麗な方ですね!』
と、コメントするのは僕。
このコメントに対し、
「綺麗だってありがとー! 今夜ホテルでもどう?」
ぶふぉあ。
つい鼻水が発射した。
胸をチラッと見せるのパワーありすぎる……
「今コメントしてくれたのはほんじょーっていう配信者で、炎上を擁護する活動をしているみたいです」
「なにそれ面白そう! お兄さん私が炎上しても助けてくれるの?」
『はい! 喜んで!』
「あら嬉しい返事。じゃあシャンパン頂こうかな」
「シャンパン入りまーす!」
という感じでお客さんを褒めてオーダーをもらう。
そうすれば売上げに繋がるわけだ。
『ほんじょーお前ばっかり相手にされて俺は悲しい』
『胃に穴が空いた』
『ファッキン!』
「いやいやみなさんのコメントも読まれてましたよ! ほら次の席です!」
『お姉さん、どタイプです』
『性癖ぶっささりです』
『結婚して下さい』
「だからさっきからそのコメントしてるから相手にされないんでしょうが!」
「なにカメラ? 配信してる? あんまり映さないでほしい。なんでタカトとの時間を童貞たちに見られないといけないの?」
…………あちゃ~。
あーカメラ去って行ったよ。
ほんとにこの人たちは……
「みなさんそれやめましょう。普通に引かれますから」
『すまん……』
『こういうときのコミュニケーション知らんのよ』
「僕だって同じです。ひとまず褒めるところから始めましょうよ」
僕だって年上の女性と話すのは得意ではない。
同級生と話すのすら緊張するんだから。
『にしてもあかぼん来ないな』
「僕も気になってました。まぁ何時間も荒らすのってムリだと思うんです。瞬間風速は凄いけど、すぐ飽きると思うんですよね」
そう。僕はそう思っていた。
あんなのものは一過性のものに過ぎない。飽きるまで荒らし尽くして満足したらやめる。
だってさ、未だに過去の炎上叩く人って周りから見れば「まだそんなこと言ってるんだ……」ってSNSでも引かれると思う。
僕の見立てでは佳境に現れて荒らして帰ると踏んでいる。
だからあいつはまだ来ない。
でも、僕の考えは大きく外れていた。
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