第71話 「荒らし」の前の静けさ
六月二十三日。
今の騒動に関わってから何日も経過した。
真那月レンの活動休止は続いていて復帰の見通しは立っていない。
でも不思議なことにSNSでは静かになり始めている。
もう飽きられたのだろうか。
僕としては真那月レンが謝罪配信を行ったあとに、僕があかぼんと一騎打ちして決着させるつもりでいた。
彼女は深く反省しているし家庭の事情も抱えている。
説得、で解決させるほかない。
確かに真那月は不特定多数を怒らすワードを言ったがだからってその人の希望が潰えるのはおかしい。
日本は炎上に過剰反応する。
そいつが再起不能になるまで叩き続け居場所を奪ってしまうほどに。
然るべき炎上だってもちろんある。
でもちょっとした過ちなら、再出発の道を用意したっていいんじゃないかと思う。
人は間違う生き物。
誰だって間違ってしまう。
あとは協力者がいるかどうかだ。
そんな気持ちで僕はデスクに座る。
ヘッドセットを装着しある人物を待っているところだ。
その人は過去に僕が関わったVTuberで今はコラボ依頼やゲームのストリーマーサーバーに呼ばれて忙しそうにしている。
――おっ通話来たな。
「こんばんは」
「こんばんはほんじょーさん。久しぶりですね」
相手は藤井ユイ。
可愛らしい声と落ち着いた雰囲気が特徴の今をときめく人気VTuberだ。
「すみません忙しいのに通話来てもらって」
「真那月レンさんの件は伺っています。ぜひ協力させてください」
「ありがとうございます。内容はDMで伝えたとおりです」
「コラボして欲しいって話しでしたよね?」
「はい。謝罪会見も含めた配信で藤井さんに上がってもらい、少し本人を咎める感じで進めます。構図としては二対一になっちゃいますけどこれは公開処刑でもなんでもないです。真那月レンの本心を話してもらい、僕らは問いかけ、リスナーから同意を得ます。んで本格的な復帰配信の時もコラボしてもらって『復帰した』ってことにしようかなと」
「いきなり炎上に切り込むわけじゃなく、真那月リスナーに復帰を歓迎して貰ってからあかぼんさんと対峙するわけですね」
「はい。外堀を埋めてから動こうかなと。まずはリスナーに謝らないといけませんからね」
「ほんじょーさんらしいですね」
「自分のリスナーに許され、僕みたいな男に咎められそれでも反省できるなら彼女はもう立ち上がれます。その舞台を作ってから……」
「でもどうやってあかぼんさんを止めるんですか?」
「彼には言いたいことが星の数ほどあります。炎上させて喜んでいられるのは今のうちです。訴えられることもあります。そういうリスクを何度だって説明してやります。何回でも配信に上がって最悪ブロックされたっていいです。何かしたら僕という厄介者が説教に来るって思い知らせることで、やる気を削ぎやめさせます。あの感じだと嫌になったらすぐ投げ出しそうな感じを受けたので」
「ふふっ」
「?」
「何て言うんだろう……その泥臭いけど真剣なところ、ほんじょーさんらしくて好きです。私もそうやって助けられたんですね」
「僕はいつだって真剣ですよ」
そうさ。
いつだって真剣だ。
いや、この立場になってから常に真剣さ。
「コラボは来週三十日なのでよろしくお願いします」
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