第70話 立ち上がろう

「私のこと、どこまで知ってるの?」


「アダルトバーチャルエージェンシーでVやってることしか……」


 だって簡単なプロフィールしか公開されてないんだもん。


「そう。配信してる?」


「いえ」


「そこは気を遣ったつもり?」


「こういうことは晒しません」


 これは本心。


 僕は自分のコンテンツとなることしか配信しない。


 こっそり配信するなんてもってのほかだ。


「わかった。私、他人への期待が0なの」


「僕も似たようなもんですけどね」


「顔の良い男、金持ちの男、優しくて気遣いのできる男。色んな男と付き合ってきたけど、私そのものが好きなんじゃなくて私の身体やステータスとして関係を持とうとしてるって気づいた時があって」


 うーん。わからんでもない。


 真那月さんは間違いなく美人だ。


 だから男が寄ってくるのは必然だと思う。


「でも私は母子家庭で育ってきたからお金の執着があってね。どうやったら稼げるか毎日考えてた。接客業してたらモデル事務所に勧誘されてやってみたけど、私に売れる努力なんてできない。熱量もない。でもお金が必要だった。売れなきゃいけなかった」


「生活費稼ぐため、ですよね」


「うん。弟の治療費も払わないといけないし」


 なんて残酷なんだ。


 とても若者が抱えるには難しい問題。


 僕が同じ立場になったら逃げ出すに違いない。


 この人は強いんだ。


「同期の子は顔と名前を覚えてもらう為に会う人全てに笑顔を振りまいてたけど、私に営業スマイルなんて出来るわけないでしょ? 愛嬌振りまくことなんてやったこともないし、偉いかもしれないけど他人に言い顔することが絶望的に下手くそだった。だから段々と端っこに追いやられてね」


「だから風俗に?」


「当たり。キャバクラなら男が勝手に来るから適当に相手して金を落としてもらってた。ある意味天職だったのかもしれないけど、新人の私を妬む先輩が多くて。実力の世界なのに面倒だよね」


「でも辞めちゃったんですよね」


「……仕事自体は順調だったよ。太客見つけて一位にもなれたし。でもその頃に気づいちゃった。お店に来る人もアフターでホテル狙い。私という人間が大事なんじゃなくて、私を懐に抱えたいだけ。きっと用事がなくなったら捨てるんだろうな……って」


「……」


 何も言えねえ。


「病んじゃった。死のうとも思ったし。でも私がいなくなったら弟を助けられない。もうぐちゃぐちゃ」


「こんなときなんて言えば……」


「君何歳なの?」


「十九です」


「そっか。思ったより子供だね」


「弟さんはお幾つなんですか?」


「十歳」


「まだ小学生なんですね」


「殆ど休んでる。友達にも会えてない」


 いや、この人は立派だよ。


 炎上したのが不思議なほど。


「ボロボロだった私がお店を辞める前、代表と出会った。代表は水商売に足を突っ込んだ悩める若者にセカンドキャリアを歩ませるためのプロジェクトを展開してて、その一環としてVに誘われた。面白いよね。Vなのに顔映さなきゃ何してもいいって言うんだもん」


 へえ。そういう意図でアダルトバーチャルエージェンシーを立ち上げたんだ。


「そこからは代表のマネジメントで有名になって今は投げ銭と広告で生活できてる。事務所も大きくなってきて代表は夢だったホストクラブの経営もしてる。借金はまだあるみたいだけど」


 いやホストクラブ運営してるんかい!


 悩める若者を送り込んでるじゃん!


「話せる部分はここまで。どう? 満足した?」


「色々と腹落ちしました。ありがとうございます真那月さんにとってVはとても大事ですよね」


「もちろん」


「じゃあ炎上を解決しましょう。僕はその道の人間です。任せて下さい」


「それは任せるんだけど、どうやるの?」


「発端はあの発言です。謝罪は必要ですが謝罪だけではまたおもちゃにされます。あかぼんを止めなきゃチー牛は暴れ回ります。少しだけ時間をください。協力者を集めるので」





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