第69話 弟に似てるね
「初めまして」
「…………はい」
ヘッドセットでもギリギリ聞き取れるぐらいの声量で返事が届く。
その声は乾いていて「めんどくせー」って言っているように感じた。
「えと、通話に来てもらってありがとうございます。今大変だと思いますが僕は真那月さんの力になりたいって思ってます」
「そりゃどーも」
「おいおいレンちゃんよお。若くてピチピチの坊やが尋ねてきたんだからもう少し大人の振るまいが出来ないものかね?」
そう言うのは三ノ宮ジョーさん。
この人の計らいでこの場を設けさせてもらった。凄く感謝。
「だって頼んでないし」
「レンちゃんにもっと愛嬌と笑顔があれば更に良い女になると思うんだがな」
「はいはい」
真那月レンには邪険に思われていることだろう。
でもここまできたら関係ない。
「んじゃ、あとは若い二人で楽しんでくれ」
「えっ、ジョーさ」
効果音と共にジョーさんは退室した。
ちょっと待ってそれは聞いてない!
「「………………」」
互いの間に沈黙が漂う。
キッツこの時間。
胃がぎゅーってなる。
こういうとき先に話してほしいっていつも思っちゃう。
「「僕は(私は)」」
うっ同時かよ……。
「どうぞ」
「君の方が早かった」
「いや同時……」
「同時じゃない。ほら早く」
「いや……その~大変でしたね今回の件」
「炎上なんて配信のつきもの」
「でも良かったです。深く落ち込んでなくて」
「君は私のメンタルケアのためにきたの?」
「それもあります」
「それも?」
「僕は炎上を擁護する目的があります」
「そうやって女の子に近づいてきたんだ?」
「違いますよ! 過去の件はたまたまです!」
「ふーん。どうだか」
なんか怪しまれてる。
でも僕のこと知ってるんだ。
ちょっと嬉しい。
「火事が起きたら消防隊が。事件が起きれば警察が。炎上起きればほんじょーが現れるんです」
「スーパー戦隊みたいだね」
「スーパー……?」
「気にしないで」
なんだ、冗談も言うじゃないか。
「じゃあ炎上の専門家さん。私はどうすればいいのかな?」
「まず、事の発端を教えていただけますか」
「――ちょっと煽るようなこと言っただけ」
「なんて言ったんです?」
「恋愛とかの話しになって、モテない男の特徴とか童貞キモいとか言い過ぎちゃったの」
あぁ、そりゃ燃えますわ。
キモいとか陰キャとかって否定じゃなくて、こうすれば女の子から注目される! とか言ってあげないと。
ポジティブな本心とネガティブの本心を間違えたのか。
「そしたらあかぼんってヤツのリスナーがいたらしく的にされちゃった」
「真那月さん。あなたはバカです」
「はぁ???」
「いいですか。インターネットには色んな人がいます。僕みたいな陰キャだって多くいます。現実に後ろめたさがあってネットに逃げているのに、唯一の居場所で否定なんてされたら暴徒に化すほかありません」
「そこまで考えなきゃいけないの?」
「当然です! 更に今やVTuberはアイドルのような存在です。アイドルがそんなこと言っちゃいけません! ましてやあなたのような人気者が言ったら尚更ね! 僕だって好きなんですよVTuberが! 現実見るようなこと言われたら死にたくなっちゃいます!!」
「…………」
「ちょっとした発言かもしれませんが、そのちょっとしたことで燃え上がるのが今のネット界隈です。わかりましたか? わかったら返事」
「ぷっ……」
「?」
「あははははは! なんで初対面の男の子に説教されてるんだろ」
「笑い事じゃありません」
「君、弟に似てるんだね。妙なことで熱くなったりバカっぽいところとか」
「弟?」
「歳の離れた弟がいるの。いつも可愛がってたから」
そうか。だからスーパー戦隊とか言ってたのか。
「弟が大きくなったらこうなるのかな……お姉ちゃん寂しいな」
「なんかその言い方だと僕が悪いお手本だって聞こえますけど」
「でも大きくなる前に離ればなれになりそう」
「ん?」
「難しい病気にかかって成人まで生きていられるか」
……おや?
「君になら話してあげるよ。私が何をしてきたか」
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