第68話 三ノ宮ジョー
時刻は二十三時。
約束の時間になったので僕はいつものデスクである男を待っていた。
その名は“三ノ宮ジョー”
アダルトバーチャルエージェンシ―所属のVTuberだ。
彼についてはほとんど情報がない。
なぜなら初配信以降、月に一回か二回くらいしか配信しないからだ。
そんな人からなぜ連絡が来たのか……。
まぁ察するに真那月レンについてだろう。
同じ事務所なわけだし。
新宮領レオみたいに強引な依頼がないことを祈るが。
――あ、通話来た。
そんじゃ始めますか。配信は通話終わってからにしよっ。
「こんばんはほんじょーです」
「こんばんはほんじょーくん。三ノ宮ジョー、イケオジってみんなから呼ばれてる」
うおおおなんて良い声なんだ!
ハリウッド映画の吹き替えしてそうな渋い声!
確かにこの声ならイケオジって呼ばれてもおかしくない!
お初だけどもう好きになっちゃった!!!
「……えと、その、今日は?」
「あぁすまないね。まずは急なお願いに応えてくれてありがとう。アダルトバーチャルエージェンシー所属のVTuber三ノ宮ジョー。元AV男優で出演作品は三百本以上! 抱いた女性は五百……」
ちょ、ちょっと情報量エグい!
「今は引退して配信の世界にいるけどまだ根強いファンがいるんだぜ? それこそこの前配信を見てくれたってマダムが東京で会おうって言うからディナーのあとに……」
止まんないよこの人!
僕よりよっぽど配信者向きの性格してるし!
「ってわけで熱い夜を過ごしたわけさ。……ん? どうしたんだい?」
「いやっその……オープンな人だなって思いまして……」
「なーに隠すことなんて何もないさ。人前でも裸になれるしな俺は」
いやそこは隠したほうがいい。特に股間のあたりは。
「そ、そうなんですね」
「いかん引かれてるね。ごめんごめん。つい自分のことを喋りたくなるんだ。ところでうちの代表には会ってるね?」
「代表……」
「新宮領レオ」
「あっはいDMですけどやりとりはしました」
「面白い男だろ代表は。無茶なことばかり吐くが、本当にできると思ってるしできると思う人にしか依頼しないんだ」
そ、それって……
「うちのワガママッ娘を炎上騒動から救うんだろ? 面白そうだから俺も加勢しようと思ってな」
「それは新宮領さんから依頼されたんですか?」
「いや独断だ」
「気持ちは嬉しいんですがそれはどうなんでしょう……僕は僕で新宮領さんに依頼されているので」
「はっはっはっ案ずるな。俺は真那月にまつわる世間話をさせてもらうだけ。ヒントをどう活かすかは君次第だほんじょーくん」
「……なるほど」
「挨拶はここまでにしよう。まず俺たちの事務所“アダルトバーチャルエージェンシー”が生まれた話しからしようか。これは二年前の冬まで遡る――」
☆★☆
「――つまり俺たちははぐれもの集団。隙間産業で稼いできたちっぽけな存在だ」
「でもみなさん結果を残されてきたわけじゃないですか。三ノ宮さんだって業界では有名になったわけだし」
「ほんじょーくん何度言わせるんだ。三ノ宮じゃなくてジョーって呼びな?」
「すみません、ジョーさん……」
「君はもう少し堂々としたら俺好みの男になるんだけどな」
男に好かれても……
「さて一方的な長話になったが聞きたいことはあるかね」
長すぎたから随所随所しか覚えてないよトホホ……
「そうですね……真那月レンの素性がわかったので助かりました。というかみなさん苦労されてますね……」
「なーに生きてればこのくらい当たり前さ。代表は会社二つ潰して借金一億作った。俺は自分のやりたいことしかしたくないから仕事はすぐ辞めるし継続がない。真那月はプライドが高く傷つきやすい。天才肌なのにもったいないがな」
「でも今は成功してるじゃないですか」
「代表に会ったおかげだ。たまたま俺たちを見つけて拾ってくれたから今がある」
「……そういう関係値羨ましいです」
「そうか? メンバーは仲良しこよしでお手々繋いでるわけじゃないがな。結局は自分が良ければそれでいい」
「僕も似たようなもんです」
「はっはっはっ言うねえ。時間かな。また会おうほんじょーくん」
「はいお話できて楽しかったです」
互いに別れの言葉を交わして通話を閉じる。
なんだか凄く前進できた気がする。
真那月レンのこと。
アダルトバーチャルエージェンシーのこと。
今回の炎上のこと。
まだまだ頑張らないといけない。
よし! とりあえず寝るか!
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