第62話 チー牛の革命児 あかぼん

 その日の夜のこと。


「ほんじょーの配信はあくまでもスタンダードであり、ちゃんとルールを守っていることを約束します! ということで、みなさんこんばんは」


『やあ』

『こん』

『よおむさ苦しい男共』

『黙れ童貞』


 たまに思うんだけど開幕初手で煽るの日常化してきたな。


「今夜は予告していたとおり真那月レンについて話そうと思います」


『ワクワク』

『どうやら真那月は二三時に配信するみたいだぞ』


 ほう。あと三〇分くらいか。


 配信が暖まったら見に行こ。


「了解しました。また見に行きましょ。ひとまず今は真那月レン及びバーチャルアダルトエージェンシーについて話します。まず真那月レンは元売れっ子キャバ嬢だったようです。これはウィキから抜粋しました。そんであるとき突然、姿を消し今の事務所に拾われる形でVの世界へ飛び出しました」


『水商売はてーへんだ』

『顔は見れないけど美人なのは間違いない。俺のカンがそう言ってる』

『あのスタイルで人気キャバ嬢の時点で顔が良いのはお察しよ』


「事の経緯は詳しくわかりません。何せ活動歴が浅いので。だけど話題性が高くあの同接なので噂は広まり大物VTuberも気にかけている、だとか。ちなみに悪僂みずきさんは知っているようでしたよ」


『まぁ話題性だけ見ればそらそうよね』

『Amaterasuといい、アダルトバーチャルエージェンシーといい、最近はVの事務所が猛威を奮っている。個人勢もそうだけどさ』

『事務所コラボとか金が動くもんなぁ……いいよな人気商売は』


「でも過去に辛い経験があるみたいです。キャバ嬢を辞めた理由は明らかにされていませんが、病気に苦しむ弟や両親の離婚があったようで」


『あーそれ配信で言ったらしいね』

『水商売って簡単に稼げるイメージあるけど、水商売を始めようと思った理由は複雑で夜職の人をバカにしちゃいけないって思った』


 それには僕も同感だ。


 好んでやる人もいると思うが、掲示板とかで『元ホストだけど質問ある?』って類いのスレッドをよく目にしていた。


 多額の借金返済、家庭環境、若気の至り……


 若者が経験するには早すぎる理由とかの人もいた。


『おい真那月レンの配信が始まったぞ』

『見に行こうや』


 ん。もうそんな時間か。


 それじゃスマホで覗いてみよう……


 ――ファッ!?


 どういうことだってばよ!?


『開始直後なのにめちゃくちゃ荒れてるじゃん!』

『え、これお前ら?』

『んなわけねーだろカス』


 ただスマホで配信を開いただけなのに、そこには猛烈なスピードで流れていくコメントの群。


 4ねとか氏ねとか、誹謗中傷の類いが激流のように流れてる。


「ちょっとこれ何なんですか! いきなり大炎上してるし……」


『ほんじょーこれさ、ID見てみ?』


「IDですか? ……頭に『チー牛』って書いてある人が多いですね。ってかその人たちが荒らしてる」


『知ってるかはわからんけど、最近“チー牛の革命児 あかぼん”ってヤツが、世間一般で言うチー牛って連中を率いて荒らしと炎上商法で暴れてるらしいんだ』


「今荒らしてる人たちがそれってことですか?」


『そう。同士たちさ』

『あ? 同士?』

『そう同士。誇り高きチー牛さ』

『お前はそうかもしれないけど、俺たちはチー牛じゃねえ! あと荒らしもしねえ!』


「ちょっとちょっと、どういうことですか??」


『ここにいるリスナーの中にもあかぼんを慕う連中がいるのさwww』

『ほんじょーはさすがにガード堅かったね。炎上のタネが少なくてやっぱおもんねー』

『コイツやっぱつまんねーから真那月の配信に加勢に行こうぜ』


「あなたたちも“あかぼん”に言われてここに来てたんですか?」


『気づくのおせーよ。あかぼんはめっちゃ頭良いから、お前じゃ相手になんねーよ』

『じゃあなほんじょー! 達者で!』





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