第56話 ネットの人気者ってよくわかんねぇ!

「みなさんカンパーイ!」


 って言葉を聞けば誰しもが手に持つグラスを近くの人とぶつけ合う。


 僕もそうだと思ってそういうテンションのままグラスを前に出したけど、反対に座る二人はグラスを持ち上げることもせず――


「はぁ……こういうの嫌い」


「静かに飲もう。低俗な気分になりたくはない」


 と、言い放ったのだった。


 僕とHaYaTeは目をまん丸にして、互いにグラスをぶつけたけどどこか申し訳なさを覚える。


「テンション低いですね~明日はもっと騒がしくお願いしますよ~!」


 スタッフさんは気にせず喋っている。


 普段から配信者と活動しているから慣れてるの?


「あっ俺が肉焼くっす」


 そう言ったのはHaYaTeだ。


 トングをカチンカチンと鳴らして綺麗な色をした牛肉を網に寝転がす。


「僕もやるよ。人数いるし」


「いいって俺に任せろって」


「いやいや一人にさせるわけには」


「いやいやいやいや。大丈夫」


 まさか……コイツ!


「ほんじょーはさ、会話盛り上げてくれればいいよっ☆」


 やはりか貴様ッッッ!


 眼前に並ぶ魔物から逃亡し僕だけを犠牲にするつもりだ!


 そんなことはさせない。死ぬなら二人一緒だ!


 苦しいときも楽しいときも一緒なんだ!


「ね、ねえ二人ともさ! この人プロゲーマーで世界で活躍してるんだって! 聞きたいことないかな?」


「おいバカ!」


「プロゲーマー? プロって職業はないからただのゲーマーなんでしょ?」


「グフっ!?!!?」


 ああっ!?


 HaYaTeの口から致死量の出血が!


 確か辻屋ほのかさんって名前だったな。


 その発言は気をつけた方がいい。


 絶対炎上するから。


 確かにプロって職業はないけど、そのステージにまで到達した人に対して言っていいことではない。決して。


 必ず炎上するから。HaYaTeが手を止めた隙に肉が炎上してるけど。


「辻屋さんはどんな活動してるんです?」


 すかさずフォローだ。


「君、誰? 君のこと知らない」


「グフ!!??!?!」


 あぁ、あれは姉さん。


 なんで頭に輪っかつけてるの?


 おかしいや。僕にも輪っかがついてる……


「ほんじょー! 男なら戻ってこい!」


「…………ハッ!? ここは?」


「なんとか一命を取り留めたか。気をつけろ、想像以上の手練れだ」


「クックックッ。愚かな弱さだ」


「さっきからグラス回してっけどよ。それワインじゃなくてファンソグレープだからな? 炭酸抜けるぞ?」


「そう見えるか?」


 そうにしか見えない。


「人間をさとすのは難しい。無駄な知識をつけ、無駄にあがき、無駄に死んでいく。美しくない」


「あの、なんとお呼びすれば」


「……我が名は大亜紋度怜ダイモンドレイ。字はこうやって書く」


 包帯を巻いたその人はスマホに名前を入力して見せてくれた。


 以外と親切なのかもしれない。


「ダ、ダセぇ……」


「そんなことないよ」


「うわーキッツ。配信してる男ってキッツ」


「そなたは何者だ? 面妖な雰囲気を感じるが」


「はぁ? 私のこと知らないの? これだから田舎もんは。いい? 私は人気歌い手の辻屋ほのかよ。SNSフォロワー十万人、チャンネル登録者三十万人を抱える売れっ子なんだから」


「俺と変わんねーじゃん。ほれ証拠」


「ウソよこんなの。フォロワー買ったでしょ? キッツ」


「Li zoneはさ、ヨーロッパの由緒あるプロチームだから人気が半端ねーの。日本人だけなら俺の方が少ないけど世界で見れば俺だって負けてない」


「言い訳もキッツいね。言いふらさないからスマホしまったら?」


「あ、あのさ! 交流の場を設けてもらってるんだからもう少し仲良く食べながら話そうよ!」


 せっかくの高級焼き肉店。


 食べなきゃもったいない。


 一皿ぶん黒焦げになったけどな。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る