第55話 未成年ズ

「ありがとうございましたー」


 レジで代金を支払いブツを受け取ると僕はルンルンな気持ちでお店を後にした。


 さすがは東京の家電量販店。


 地元とは比べられないほどの規模で何といっても品揃えが素晴らしい。


 多種多様なアイテムを眼前に並べられたら、僕みたいな配信してる人はつい目を奪われてしまう。


 だから時間に余裕があるからって一時間以上は滞在したと思う。


 ふらっと立ち寄っただけなのに気づいたらマウスとキーボードを買ってしまっていた。


 ふふふ、でもこれでFPSが上手くなるかもしれない。


 ……って思うときあるよね。


 プロが使ってるデバイスを買ったら強くなった気になるやつ。


 たまにあるよね。


 まぁそんなことはいいとして、もう夕方だから前夜祭の準備をしようかな。


 一回ホテル帰ってシャワー浴びようか。


 久しぶりの東京だけど前回と目的が違うから若干楽しいぞ。


 もしかしていつかはここに住むのかな。


 もちろん今以上に有名になれたら。


 自分で言うのもアレだけど、可能性としてはゼロじゃない。

 

 稼ぎは前より増えたし安いアパートなら借りれそうだけど、まぁ僕の活動内容なら地元でもできる。


 でもオフ会で飯に行くとか、家に遊びに行くなら東京一択だ。それはここでしかできない。


 ちょっと待って。遊んでくれる仲間がいない。


 悲しい。


 だとしても上京ってカッコイイ。


 タワマンに住んで可愛い子招いて高級なシャンパンでも――


「あっほんじょーやんけ」


「えっ、HaYaTeか」


 聞き覚えのある声だと思えばかのプロゲーマーと道でばったり遭遇した。


 さっきぶりじゃん。


 僕の妄想タイムを邪魔しやがって。


「悪いな俺で」


「なんか奇遇だね」


「デバイスが壊れたから買いにきてた。何買ったの?」


 僕は袋の中身を見せる。


「マウスとキーボード。気になってたやつだから買っちゃった」


「出たこれあれだよ。ヨーロッパプロ御用達のメーカーじゃん。イイネー金持ちは~」


「ふっふっふっ。これ使ってプロになろうかなって思った。さっき」


「悪いこと言わないからやめとけ。ほんじょーのプレイ見たことあるけど、沼ってるからもっと練習した方がいい。それ以前に反応が悪いし経験不足が否めない」


 うわープロゲーマーに面と向かってダメだしされるとマジなんだなって思っちゃうから、ダメージが異様にデカい。


「よくいるんだよね~デバイスだけが立派な人。料理人で言うと食材や器具だけ自慢して腕前がないパターン」


「ねえちょっと。僕のメンタル激ローだけど?」


 ついでに言うとプチ炎上しそうな発言だ。


 それを言えば、デバイスくらい良い物使ったっていいだろ。そんなの個人の勝手だって書き込まれるだろう。


 でも、プロからしたら違うんだろうな。


「あ、ごめんごめん。もう行く感じ?」


「ちょっと迷ってた。シャワー浴びようかな」


「ちな、未成年組の場所聞いた?」


「え、なにそれ」


「ほら俺たち酒飲めないからその場にいれないんだよね。酒の席に未成年がいて、飲んでないって言い切るの難しいじゃん」


「あーそっかー」


 そこまで考えてなかったな。


「だから未成年ズは高級焼肉店で決起集会だってよ。つまんねーなー」


「そのメンバーって僕たち以外にもいるの?」


「あと二人未成年いるってよ。配信者のやつで」


 ?


 誰だろう。


「そっか。教えてくれてありがとう。僕は一回戻るね」


 そう言って僕はホテルに歩を進めた。


 ちょっと残念だなー。


 この機に色んな人と関わって見たかったけど、事情が事情だけにしょうがない。


 ひとまず汗を流してきますかね。



☆★☆



「ほんじょーこっちこっち!」


「お待たせ。あれ? ここって……」


「やっぱ気づいた? あのカリスマ動画投稿者『ヒカリ』御用達の焼肉屋だよ。見たことあるんじゃない?」


 会計しないで帰ってゲストを困らせることで有名なあのお店だ。


「まさかここでやるとは思わないよな。中行こうぜ」


 HaYaTeに連れられ店内を進む。


 和で彩られた装飾は凄く綺麗。


 金箔が貼られているのか眩しい箇所もある。


 金閣寺かよ。


「あっほんじょーさん。どうぞこちらへ」


 金のふすまを開けると十人くらい入れそうな中部屋にスタッフ三人と、出演者らしき人が二人。


「これで全員ですかね」


「はいみなさんお揃いです」


 しれっと上座に座ったけどいいのかな?


 対面には黒髪の中性的な見た目の男と……なんていうか地雷系? の女の子が鎮座している。


 男の方はなぜだか右手に包帯を巻いていた。ケガでもしてるのか? なんで学ラン着てるの?


 女の子の方は黒とピンクのワンピース。ふりふりも付いてる。お顔は可愛らしい。でも髪色がピンクだ。


 やはり配信者。クセが強い。


「注文してる間、自己紹介でもしましょうかね~」


 スタッフの提案を聞いて隣のHaYaTeが口火を切った。


「Li zone(ライゾーン)所属プロゲーマーHaYaTeっす。よろしくー」


「えーっと配信活動してますほんじょーです」


「……愚かな人間だ。自分のことをベラベラと喋るとは。くっくっくっ」


 は?


辻屋つじやほのかです。稼げない男に興味ありません」


 え?




 え?






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