第54話 プロゲーマーはご多忙である
不意に空いたドアを静かに見つめると、金髪で僕と背丈が似ている男性が入ってきた。
「おざーっす! 十九歳天才プロゲーマーのHaYaTeでーっす!」
元気一杯の声がスタジオ内に響きスタッフが廊下に出て挨拶を繰り返していく。
一応僕も聞こえる程度くらいの声量で挨拶をしたが、多分聞こえてないと思う。
「ここが本番で使うスタジオっすね。本番で使うスタジオってフレーズを配信中に言うとなんだか荒れそうで草」
「HaYaTeさんお待ちしておりました。間も無くリハ始めますのでお荷物はこちらへどうぞ」
スタッフの一人がそう言うとプロゲーマーは僕の前を通ってロッカーへ消えた。
第一印象……なんか遊んでそう!
お酒好きそう! 彼女いそう! 稼いでそう! 人生楽しんでそう!
くぅ〜羨ましい! 僕とは対極だぁ!
「出演者の人っすか?」
「!? はい、そうです!」
急に声をかけられ、はいそうですとしか言えない僕に乾杯。
「HaYaTeっす。よろしくお願いします」
「配信やってますほんじょーです」
「えっあのほんじょー!?」
もしかして僕のこと知ってる?
「数々のVTuberを助け虜にしたほんじょーです」
「うわーマジか切り抜きとか見たことあって俺の配信でも話したことあるんすよ。真砂さんとのコラボに出るって聞きましたけど会えて嬉しいです!!」
凄い。見た目の割には爽やかで好青年だ。
「いやいや僕なんて……HaYaTeさんは何のゲームをしてるんですか?」
「俺はヨーロッパプロチームLi zone(ライゾーン)所属の格ゲープレイヤーです。これでも世界大会とか上位入賞してるんです」
世界大会かよカッケーな。
「ほんじょーさんっておいくつですか?」
「十九ですよ」
「あっ、じゃあタメだから普通に話します」
「同い年なんだ……自信無くなるな……」
自信を失うのは世界で戦ってるから、だけじゃない。
初対面の僕に積極的に話しかけて距離を伺うその姿勢もだ。
それもそうだよな。彼はプロチームに所属してるんだから自分の言動一つでチームの顔に泥を塗ってしまう。
そこを含めてかなり鍛えられてるんじゃないのかな。
選手寿命がハッキリしないプロゲーマーの世界で生き残る術を会得していることだろう。
そう、そういう人がこのイベントに呼ばれてるんだから。
でも、今回の僕は一味も二味も違う。
「もし炎上したら僕に一報入れてほしい。大会中でも会場に駆けつけて救って見せるから」
「VTuber以外でも本気になってくれんすね! てっきり可愛いVTuberにだけサービスしてるって思ってたわ!」
「まぁ男だとやる気半減かな〜。適当に触れてあとは流すかも……」
「あはははちゃんと擁護して! 本職でしょ!」
ちゃんとバイブス上げてきたからこれくらいは出来るんだぞ!
「お二人とも準備はいいですか?」
「はーいバッチリでーす!」
「それでは朝一発目のリハは配信者ほんじょーさんと、プロゲーマーHaYaTeさんです」
拍手に囲まれスタジオ入り。
簡単な自己紹介を済ませる。
さぁ、しまっていこう。
☆★☆
「OKでーす! 明日は登場前に簡単なリハやるのでよろしくお願いします。あとこれ今夜の日程です」
無事にリハを終えた僕らは最後に説明を受けロッカーへ向かった。
「ほんじょーってどっから来たん?」
「そこはトップシークレット」
「何でよ。地方住んでるから恥ずかしくて言えないの?」
「いやいや大都市だから。車飛んでるし」
「うわおもんな。俺は神奈川だから」
ヤンキーやん。
「そうですか。良かったね」
「ところでほんじょーはこのあと予定あるん?」
「ところがどっこい。何もなし」
「空いてるんだ。いいなー自由時間あって」
「そっちは?」
「チームから三時間の練習を課せられてるから帰ってやろうかなーっと」
「ちなみにさ、プロゲーマーの一日ってどんな感じなの?」
「ずっとゲームしてる。ジャンル次第ってところはあるけど大会近い人はスクリム(大会を想定した練習試合)に毎日出るし、配信もするし、プライベートもあるから中々自由時間が作れない」
それは過酷だ。
「遊びたいけど今は我慢しなきゃいけない。結果出せないとクビもしくは移籍になるから。今のチーム好きだからずっといたいんだよなー」
「でもさ配信でそこそこ数字上げれたら配信一本でも良くない? 元プロの人ってみんなそうなるし」
「違うんだな〜俺は選手として勝負したいからこの道に進んだわけ。覚悟決めてやってたら真砂さんに気に入られてこのコラボに呼ばれたからこれが正解だと決めつけた。じゃ、俺は帰るねん」
外に出た僕らは別れの言葉を交わして別々の方向へ歩き出す。
同世代で活躍する人と初めて会ったから良い刺激になった。
世界で戦うって響きカッコいいな。僕はそうなれないけど彼を応援しよう。
──さてテェックインしたら暇つぶし散策始めますかね。
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