第53話 リハーサル
「港区のエフエムラジオズまでお願いします」
タクシーの運ちゃんにそう告げると静かに走り出す車体。
地元と違って道路が舗装されてるから振動が少なくて心地良い。
五月の東京は日が眩しかった。
窓から差す陽光に目を細めながらただボーッと景色を眺める。
今日は五月十四日。
さて今日は何の日だ?
そう、ただの土曜日。
学生にとっては楽しい休日。
サラリーマンにとっては明日は日曜……明後日は月曜……朝から会議があって……と鬱を加速させる曜日。かどうかは知らん。
僕は半ニートみたいなもんだからどちらにも該当しない。
だって毎日休みだもん。
好きな時間に起きて、ご飯食べて、配信して、寝て。
こんな素晴らしくも儚い人生。
とまあそんなことは置いといて。
今日はコラボ前日。
リハーサルが予定されているんだ。
エフエムラジオズって場所に出演者が集まってリハやって、夜は前夜祭をやるらしい。
かなり緊張してる。
だって集まるのは大物配信者とか人気ストリーマーばかりで、オマケに相当数のスタッフを動かしてるとも聞いた。
それにいくらかかってるかは見当もつかないけど、そこで顔出しするんだから失敗したら一生話しのネタにされかねない。
でも、やるしかない。
ここまで来て逃げたくない。
リスナーに僕は遊びじゃなくて本気で配信してて、その熱量を知ってもらう意味もある。
配信者ほんじょー、行きます。
ところで港区に行けば港区女子に会えるんですか?
☆★☆
「ほんです。あっじょーです。ほんじょーです」
いやいや緊張しすぎだろ僕。
芸人の冒頭の挨拶みたいになってるじゃんか。
「ほんじょーさんですね。ご案内します」
受付のお兄さんに芸人風挨拶をかますと、ニコッと微笑んで中を案内してくれる。
ここは記念配信が行われるエフエムラジオズ。
ドデカいビルの真下に位置し、二階建ての構造になっていた。
なんと二階がガラス張りで外から丸見え。
ちょっとエッチだ。
「お荷物はここに置いて下さい」
ロッカールームに通されリュックをしまう。
しっかり施錠し鍵はネームホルダーと一緒にした。
……まだ僕だけか。
そうだよな。
だって大物配信者がこんな朝からリハなんてやらないよな。
つまりどういうことかと言うと、人数が多いからリハは時間分けされている。
そんで僕は午前中一発目の枠。
一番格下の僕は朝から組まれ、お忙しい方々はお昼過ぎや夕方からスタートってわけだ。
でもそれはそれで嬉しいかも。
少人数なら話しやすいしなんなら誰かと仲良くなれる可能性もある。
「九時から始まりますので準備をお願いします」
「あの、この時間って僕だけなんですか?」
「朝一はほんじょーさんとプロゲーマーのHaYaTeさんを予定しています」
はやて……?
なんか聞いたことあるような。
「いやでも、ほんじょーさんに会えて嬉しいです。俺も見てたんで」
「!!?!!!??!?」
「いやマジですよ。藤井ユイの件とか最高でしたもん。世界中探してもVTuber助けるためにイベントに乗り込む人なんていませんよ」
「あ……はは。あれは若さと勢いでやっただけなんで……」
「歌ったりゲームしたり色んな配信の形がありますけど、ほんじょーさんみたいな破天荒で勢いに任せる人が現れて真砂さんも嬉しいんじゃないですか? あの人も問題発言とかしましたけど、勢いはダントツでしたから」
「炎上擁護しか出来ませんけどね……」
「そこが斬新で好きです。新しい風を吹かせるって信じてましたから。長いこと真砂さんと仕事してますけど、期待の新人登場! ですね」
「……頑張ります」
「あとリスナーが温かくていいですよね。ほんじょーさんの人柄に惹かれてるんですよあれは」
「いやいやろくでもない連中ですよ。隙あらば下ネタ書くし」
「男性配信者のリスナーは下ネタが大好物ですから。じゃあ時間まで待機お願いします」
「はいっ」
そう告げてお兄さんは退室した。
なんだろう。
若造の僕を配信者として見てくれて嬉しかった。
年上って若いだけで力を認めないし軽視するってイメージが強かったのに、なんだろうこの感じ。
あれだきっと。
きもちえええええええええ!
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