第51話 天誅

 人を痛めつけたことはない。


 悲しませたこと、怒らせたこと、がっかりさせたこと、この辺は何回もあると思うけど物理的に痛めつけたり精神的に追い詰めたことはない。


 ないことが普通だけどそうじゃない人もいる。


 僕はそっち側の人間じゃなかっただけ。


 だから少し悩んだ。


 翔太くんへのお仕置きを。


 もちろん暴行はダメだしメンタル破壊もダメだ。


 少しだけ「ざまぁw」ってなればいいんだけど、僕は直接会いに行けないから難しい。


 最初に思いついたのはパソコンの授業があればデスクトップにエロ画像張り付けるとかそんなことなんだけど、これだと大勢の前で恥をかくし逆に男子共が興奮するかもしれない。


 でも僕には巨乳女子高生そらたんを演じて得た面白い画像や動画がある。


 なので独断と偏見で編集して、翔太くんにとって身に覚えのない内容へと作り替えた。


 要するに書いてもないことを僕が加えたってわけ。


 これらをきらなちゃんたちに預け「こんなのが送られてきたけどお前キモくね???」って誘導してもらう。


 巨乳女子高生と聞いて発情した翔太くんが二人に引かれる……ってストーリーだ。


 場所は既にセッティング済み。


 二人には無線イヤホンをつけてもらい声が聞こえるようにしてもらった。


「こちらアルファ。状況を説明せよどうぞ」


「話しづらいから普通にして。きらなの家にはまだ来てない」


「了解。引き続き警戒を怠るな」


 今日は仲直りした翌日。


 んで夜。


 きらなちゃん宅に翔太くんを呼び出し天誅を下す。


 夜に誘われればあの発情猿もとい翔太くんは絶対来る。間違いない。


「もうすぐ来るって」


「了解。ベータ、準備はいいか? どうぞ」


「押し入れだから息苦しい。みあ暗いとこ嫌い」


 二人とも準備万端のようだ。


 僕はどこぞの司令官のようにモニターの前に座る。


 ちゃんとヘッドセットつけてそれっぽい感じを出してね。


「もう近くまで来てるって」


「作戦を確認する。目標ガンマを誘い出し、あの画像を晒す。良い感じのところでベータが飛び出しそのまま……ジャッジメント!」


「ねえ、それ作戦になってるの? あと大きい声出さないで」


「さーせん……」


「音がする。来たんじゃない?」


「――諸君らの幸運を祈る。クリスタルの加護あれ」


 なんかそれっぽくない??


 一瞬カッコ良かったぞ僕。


「ういーっす」


 扉が閉まる音が聞こえ男の声が聞こえてきた。


 コイツが翔太か。


「いきなり呼び出してごめんね」


「マヂ大丈夫! で、話しって?」


 うわーなんかヒップホップ好きそうー。


「その前にゲームしよっ! 翔太がやってるとこ好きなんだ」


「よっしゃ任せろ! もしさあ、一戦目にチャンピオンとったらお願い聞いてくれない?」


「なに?」


 勝ったらヤラせろ! だろ?


「恥ずかしいから勝ったら言うわ! ヒントはこの前の感じかな」


 ふん。やっぱりか。


「きらなちゃん。ひとまずゲームさせて」


 と小声で囁く。


 遠くの方からゲームが起動する音が聞こえ、そのまま待機。


 ……思い返せば随分頭つっこんじゃったな。


 トークの練習で変な通話アプリ始めて、気づいたら中学生の女の子が困ってるから手助けしてさ。


 一体トークの練習とは? って思うけど、炎上とかそんなんでここまで行動できる自分にビックリだ。


 これが僕の本質なのかも知れないな。使命感的な。


 結局僕も炎上とか問題となる話題が好きでそこに群がる小バエ。


 その小バエが面白おかしく炎上ネタを扱ってるから人の目に止まったんだ。


 炎上を煽る形で名が売れる人もいるけど、それもやり方だ。


 どのみち炎上に関わってるんだから同列。


 擁護するからってそれは正義じゃない。だって当事者と関わりがあるわけじゃない。


 触れないのが大人の対応。


「すごーいチャンピオン取れそうだね!」


 おっとっと。


 もうそこまで進んでいたのか。


 じゃあ、始めますか。


「ゴーきらな」


「翔太くんさぁ。こんな画像が送られてきたんだけど知ってる?」


 恐らくスマホの画像を見せてることだ。


「えーなにー? あーこれあれじゃん、俺がめっちゃキャリーしたやつ」


「だよね翔太くんで間違いないよね。じゃあ、これも?」


 二枚目はそらたんに対して『おっぱい揉ませて』って編集で差し込んだ画像。


「はぁなんだこれ? えっそらたんって……」


「これもそうだよね?」


 三枚目は女子高生とエッチしたいでちゅって書いた。


「いやいやいや知らん! あー死んじゃったよ!!」


 気を逸らされて死んだか。


 まあこのマッチはどうでもいいことだ。


「これって私のこと?」


 そんで四枚目。


 『クラスの女子はブサイクだらけで彼女も微妙。エッチなお姉さんとヤリたいもん!』って編集した。


 自分でもキモいなって自覚してる。


「はぁ意味わかんねーし! それ俺じゃないよ!」


「でも自分だって言ってたよ?」


「きらなちゃん。泣きそうな演技できる?」


「うっ……うう……私たち付き合ってるのに酷いよ……」


「い、いやきらなのことじゃない! めっちゃ好きだしなんなら好きだって証明できる!」


「証明?」


「ゴ、ゴム持ってきたし好きな相手じゃないと出来ないじゃん! 先輩とかでさ、そう言ってる人めっちゃいるし、若い内の恋愛ってこうじゃねって思うんよ!」


 うわぁほんとに最低よコイツ。先輩とか関係あらへんよ。


 同情も出来ない。


 仏のほんじょーでも目を瞑ることが出来ません。


「みあちゃん、ゴー」


「わかった」


 予定より早いけどみあちゃんを投入だ。


「翔太」


「うわぁ!? って、みあじゃん!」


「全部聞かせてもらった」


「えっ二人は喧嘩してるんじゃないの!?」


「もう仲直りした。私も悪いことしたけど翔太がやってきたことは許せない」


 そうだその調子。


「全部聞いてるし知ってるから言い訳しても無駄。その画像と今のやつ、SNSに拡散されたくなかったら私たちに近づかないで。きらなを襲うとしたことも書く。受験、上手くいくといいね。サッカーの強豪校に行きたいんでしょ?」


「わかったよ絶対約束する! だから消してよ!」


「それは翔太の行動次第。もう帰って」


 みあちゃんの冷めた一言で扉が閉まる音が響いた。


「作戦完了。帰投せよ」


「ねえほんじょー、これで良かったのかな」


「大丈夫だ、問題ない」


「軽っ」


「スッキリした?」


「……うん」


「私も」


「そっか。じゃあこれからも、スタンダード! 二人に約束する!」






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