第30話 戦友
とある日曜日の深夜。
配信を終えた僕は重くなってきた瞼をなんとか持ち上げ、小刻みに体を揺らしながらその時を待っていた。
最近暖かいからすぐ眠くなっちゃう。
例年ならまだ息が白い時期なのに、昼間なら半袖で過ごせるほど陽気が続いている。
今年も激アツな夏になるのかな……
無造作にマウスをイジっているとモニター右下に通知が届いた。
相手は
今、配信が終わったそうだ。
僕の方も終わってます……と。
藤井さんはまだやってるようだ。
返信してから少し経つと通話のプッシュ通知が届いた。
「はいほんじょーです」
「久しぶり。みずきです」
「はいお久しぶりです」
そういえば声を聞くのも久しぶりだ。
そのせいか、普段より疲れているような印象が窺えた。
「あはは。配信のあとなんで眠いですよね」
「うん。最近は忙しくて睡眠時間を確保するのも大変」
「でも良いことじゃないですか。僕は相変わらず過ぎて無駄疲れを繰り返してます」
「忙しいのはほんじょーのおかげ。あれから企業案件頂いたり他社Vとのコラボも増えてきたから、感謝してる」
「……へへっ」
「キモ」
キモいはヤメてよ……
「ユイはもう少しかかるって言ってたから、なんか話して時間潰して」
無茶ぶりだなぁ……
「そう言えばご飯の件、どこまで聞いてますか?」
「私は要望とかないんだけど、ユイはほんじょーのとこに行くって言うからそうなると思うよ」
「えっ、こっち来るんですか!?」
「うん」
「でも二人は大都市東京に住んでるから、そっちの方が何かと便利じゃないですか? 移動とか大変ですよ? だって電車は一時間に一本ですし」
「私は人混みが好きじゃない、落ち着かないから。地方が良い。変な気も遣わなくて済むし」
まぁ顔バレはしてないけど人が少ない地方の方が何かと便利か。
「そしたら昼間は暖かいですけど夜は冷え込むので上着とか持ってきた方がいいですね」
「雪あるの?」
「多少残ってますよ」
「ふーん。食べてみたい」
子供か。
「あっユイ来た」
もう一度画面端に通知が届く。
「すみません二人ともお待たせしました。どこまで話しました?」
「ユイお疲れ様。ほんじょーが魂の雑談してたとこ」
「うーん誇張しすぎ! ご飯の件を少しだけ喋っただけです」
「おっけーです。まずほんじょーさんに聞きたいことがあります」
なんだろう?
「はいなんでしょうか?」
「私たちは打ち上げのこと不満に思ってます。ほんじょーさんと話したかったのに、すぐ帰っちゃうんですから」
「いやほんとにマジで悪意はないんです」
「ほんじょーらしいから面白かったけど顔ぐらい見せて欲しかった」
「このお詫びはいつか精神的に」
「じゃあご飯の時に清算してもらうね」
くっ……!
これは断れない!
「煮るなり焼くなり好きにしてください」
「プランは私が考えてきました。まずですね、ほんじょーさんの地元に行きます」
「はい聞いてます」
「一応ご飯に行くって約束ですが、一日付き合ってもらおうとみずきちゃんと決めました。朝一の新幹線で向かってまずはほんじょーさんが育った地元を探索します。高校とか回りたいですね。ご飯もほんじょーさんがよく通ったお店にしたいです。午後はカラオケ、ボウリング、カフェ巡りのいずれかを気分で回りたいですね」
「ん? そういうのでいいんですか?」
と言うのも、僕に女の子のトレンドがわかるわけない。
だから藤井さんがプラン作りしたんだと思うけど、最近の若い子が思いつく内容じゃないというか……
ようわからんけど、イタリアン行くとか大きな施設でゆっくりご飯するとかあるだろうに。
「別に高級なお店で騒ぎたいわけじゃない。ほんじょーのことをもっと知りたいだけ」
「おふ……」
「夜まで巡ってから帰ろうと思ってます。ズカズカ踏み込んでいくプランなんですけど大丈夫ですか?」
「まぁ、気にしないですよ。むしろ楽しくなかったらどうしようって不安です」
「楽しい楽しくない、じゃなくて行くことに意味があるの」
「さいですか」
二人がそれでいいって言うなら素直に従おう。
「何時到着とかは
「どんな服装でどんな見た目なのかは当日まで秘密ね」
「はいかなり気になりますが我慢します」
「ほんじょーも期待してるから」
「僕は一般ピーポーなので至って普通です」
容姿に関してはどんな間違いが起きたとしても二人には敵わないだろう。
でも変じゃない、くらいには留めたい。
だから美容院予約したんだ。
でも姉さんが怖いこと言っていた。
コーデは私に任せてって。
あの人のことだからパンイチとかやりそうなんだよ。
それなりに貯金増えてきたし、たまには自分で服選んでみよう。
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