第31話 二人きりでお出かけ
約束の日まであと三日と迫った今日、僕は予約していた美容院に行くため朝から準備していた。
髪型に興味がないから下調べをした結果「ツーブロックショートクラウドマッシュビジカジ」という呪文じみたものに決定した。
少し伸ばしていたから色々選択肢はあったけど、春っぽく清潔感を出したいからこれに決めたのだ。
「新くんどこか行くの?」
そう言って勝手に部屋に入るのは奈月姉さんだ。
せめてノックくらいしよう。
「美容院行くから準備してます。あと勝手に入るのは――」
「私、今日空いてるからたまには出掛けない?」
嫌だ。
「ちょっと無理っす」
「服、買うとか言ってたけど新くん一人で大丈夫なの?」
「そんなの店員さんに聞けばいいだけですから」
「ふーんそれでいいんだ?」
「と言うと?」
「実家にいられるのももう少しだから姉さんと一緒にいたいって思わないの?」
それはそうなんだけどさ……
自分で選ぶことに意味がありそうだから、一人で行動したいんだけどな……
「あーあ寂しいなぁ~新が私の気持ち汲んでくれなーい」
「……そんなに暇なんですか?」
「うん」
「わかりましたよ。美容院終わったら連絡するんで」
「ヤッター!」
まあこのくらいはやってあげてもいいのかな。
あと数日だし。
「ふーん。相変わらずジーンズにパーカーなんだ。芋っこの服装だねぇ~」
「そこまで言うんなら期待しますからね」
「任せなさいよ! お洒落な服を選んでやるんだから!」
☆★☆
「こんな感じでいいっすか?」
「あ、ありがとうございます」
お兄さんが広げた鏡に映る僕。
おお、これはカッコイイ。
派手すぎず、地味すぎず。
なんかちょうど良いバランスの髪型だ。
敏腕営業マンとかにいそう。
「これならお連れさんも気に入ると思いますよ。彼女さんっすか?」
「えと……姉です」
「お姉さんなんすね! 美人すぎて羨ましいです」
「あはは。そうっすね」
適当な会話を繰り広げてお店を後にする。
刈り上げたから耳元が寒いけど生まれ変わった気分だ。
「良い感じじゃん。結構似合ってるよ」
「切ってくれた人は姉さんのこと気にしてましたよ」
「妙な視線を送ってきたから気づいてた。あーいうチャラっぽい人は嫌い」
いやまあ雰囲気はそうだったけどさ。
「よーし服買いに行くよ。新くんはどーいう系が好きとかあるの?」
「全くございません」
「体型は痩せ型中背でコートが似合う顔じゃないからパーカーとセットアップでもいい。でも相手は東京から来るし見慣れてる感がありそうね。カーディガンとかで清潔感を出していくのもアリ。大人っぽさは出せないから、ゆるっとしたデニムパンツに上はニット、アウターはロングコートにするのも……」
なんか呪文唱え始めたぞ。
「とりあえずあんまり高いのは勘弁してね」
「任せなさい。まずは学生御用達のウニクロに行きましょう」
バスに乗り込みウニクロを目指す。
「到着っと。地元のウニクロなんて高校生ぶり」
「姉さんってどこで服買ったりするの?」
「あんまり買わないかな。下僕たちがプレゼントしてくれるから」
うわー聞きたくないなぁ今の。
カースト上位って恵まれすぎでしょ!
「新くんは黒系が合いそうね。ちょっとこれ試着して」
渡されたのは黒のストレートパンツ。
すぐに着替えてカーテンを開ける。
「結構アリ! 細いからシュッと見えてアリ」
「ピッチリしてて動き辛い……」
「次はこれ」
今度はダボダボしてる。
厳つい兄ちゃんたちが現場で履いてそうなやつ。
「はい」
「うーん違うなぁ。パーカーの上にこのジャケット着て」
今度は薄めのジャケットを渡される。
「へい」
「こっちの方が十九歳って感じが出る……か。でも量産型っぽいのが気になる」
いつにまして真剣な表情で悩む姉さん。
インテリアコーディネーター目指してるから、こういうの妥協出来ないのかな?
でもなんか嬉しい。
普段と違う一面が見れて鼻が高いよ。
そんなこんなで時間は経過していき……
「姉さん……もう二時間やってる……」
「もう少しだから我慢して」
いつの間にか女性店員さんも加わり二人して悩み始めている。
女性の買い物は長いって聞いたことあるけどまさかここまでとは。
まるで着せ替え人形のように僕は着替えさせられ、出た答えが。
「うんバッチリだね。当日はこれを着て行くんだよ」
散々悩んだ結果、序盤に着たパーカーにジャケットってことで落ち着いたようだ。
だったら最初からこれでいいじゃん……って思ったけどまあそこはご愛嬌だろうか。
そして迎えた日曜日。
僕は駅のホームで待機している。
前日に互いの服装を伝え合っていた。
向こうは白のパンツにニットがなんだのとまた呪文を唱えていたので、僕は黒パンツ・白パーカーの上にジャケット、自販機横で待つ。
と、果たし状のような文面を送った。
新幹線が到着すると続々と乗客がなだれ込んでくる。
見逃さないように目を
まるでハリウッド女優のようなキラキラしたオーラを発しながら、僕に向かって迫り来る二人の女性。
片方は黒髪でもう片方はブルー系の髪色だ。
まさか容姿もVに似てるとは思わなんだ。
「初めまして。藤井ユイです」
「みずき」
「初めましてほんじょーです。遠路はるばるご苦労様です」
ほんとに二人が来ちゃったよ。
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