3章 本城奈月お姉様凱旋 日常の消失(クソつまんない内容になったので前半は読まなくても大丈夫です)

第25話 悪夢再び

 卒業式シーズン到来。


 一年前の僕は無駄に緊張しながら卒業証書を受け取っていた。


 緊張しまくっていたから変に体が覚えている。


 でも今は、味の違う緊張をしているところだ。


「うおーっすただいま我が家~!」


 僕の生命を脅かす危険因子。


 本城奈月ほんじょうなつきお姉様がお帰りになった。


「……姉さんお帰り」


 言葉と同時に僕はひざまついてこうべを垂れる。


「新くんごきげんよう」


「姉さんもお元気で何よりです」


「姉さん、じゃなくて姉様。でしょ?」


 しまった!


 久しぶりだったから気が緩んでいた!


「失礼しました姉様。以降気をつけます」


 姉様は僕のことを誰よりも知っている。


 性格、家での立ち位置、交友関係に至るまで。


 一時期極度のブラコンなんじゃないかと疑ったけど、これは素でやっている。


 いわゆる女王様気質だと気づいたのは最近のことだ。


 そんな女王様は僕を奴隷のように扱うのだ。


「あれ新くん。少し見ない間に顔つきが大人びて見えるような……」


「僕も十九なので」


「ふ~ん。オドオドした雰囲気もなくなってる。もしかして配信のおかげで変われたんだ?」


「そう……かもしれないですね。姉様はお変わりないようで」


「実家に戻ったら退屈しそうだったけど、これなら楽しめそうね」


「姉様そういえば、彼氏と実家に戻るって聞いたけどやめたんですか?」


「おおん!?」


「ヒィ!!」


 姉様は目にも溜まらぬ速さで僕に拳を向けた。


「いい? 二度と言わないこと。生きたければ強者に従いなさい。ね?」


「ごご、ごめんなさい!」


 この人はひいき目なしで見ても容姿端麗・頭脳明晰の完璧な人間だ。


 普通にしてれば欠点のないパーフェクトヒューマンなのに、その残念な性格が全てを台無しにしている。


 相変わらず失恋してるようだ。


 そりゃ彼氏のことを「下僕」って呼んでたら嫌になるよね。


「私はご飯を食べます。新くんは?」


「ご一緒します」


「よろしい」


 せっかく配信が軌道に乗り始めたのに思わぬ刺客登場によって、僕の配信者生活は破壊の道を辿るのだった。



☆★☆



「前も言いましたけど姉がいまして。黙ってれば美人なんですけど黙ることを知らないので残念な人なんですよね」


『お姉ちゃん呼んでこい』

『スリーサイズは?』

『お義姉さんと呼ばせてください』


「そんな楽な相手じゃないんですよ。僕のことを奴隷だと思ってるし、彼氏が出来てもすぐ別れるし。別れた八つ当たりが必ず僕に来ます。これでは命がいくつあっても足りませんよ」


『じゃ、じゃあ僕に八つ当たりして!!!』

『キモすぎワロタ』

『尻を叩いてほしい』

『お前らも大概だよ……』


「出来ることなら代わってあげたいです。ぜひしばかれてくだ――」


「ちょっと新くん! いつまで起きてるのー!」


 ん? うっすら声が聞こえたけどもしかして……


「聞こえてるの? ヘッドフォン外しなさい!」


『キタ―――(゚∀゚)―――― !!』

『お姉様!』

『顔見せて!!』


「ちょ、ちょっと姉様! 今配信してるんだけど……!」


「えっやだスッピンが映ってる??」


「顔は映ってないけど」


「なら良かった。へーこれが新くんの配信なんだ」


 もうなんで勝手に入ってくるんだよ!


「姉様お願いだから出てってもらえますか?」


「あははははコメント面白いね!」


 聞いてねぇ!


「見て声可愛いって言われてる! こんばんは~新くんのお姉様で~す! あっ本名言っちゃった……」


「みんな知ってるんで大丈夫です」


「あっそうなんだ。男の子が多いのかなぁ~」


「男性リスナーが八割くらいですけど」


「じゃあ女の子の甘い成分を供給しないとね♪」


 やべえわこの人。


 僕なんかよりずっと配信者向きだ。


 お喋りな人って知ってるけどここまでとは。


「私の名前? それは言えないな~だって可憐な女の子だよ? 君たちのことだからSNSでキモいDM送ってくるんじゃない?」


『ぐはあ性癖ぶっ刺さり案件!』

『みずきちゃんの毒舌も好きだけど、お姉様も好き!』

『余裕のある年上お姉様だいすこ』

『おいほんじょー! 明日もお姉様出せよ!』


 あぁ……リスナーも姉様の虜になってしまった。


「ねえ、みずきちゃんって誰?」


「配信会社に所属するVの人です」


「どんな関係?」


「一緒にゲームしたりイベントに出たりしました」


『それはもう仲睦まじい関係よ』

『ほんじょーはみずきちゃんの笑顔を守った男』

『デレデレしながらゲームしてた』


「ちょっとみなさん。誇張した表現はやめましょう」


「そう。どーりで新くんから女の匂いがするわけだ」


 なんか含みのある言い方だな。


 というか早く出てってよ。


「別にそれ以上はないですから」


「あらメッセージが来てる。どれどれ……」


「やだ見ないでよ姉様!!」


 姉様は僕からマウスを奪い該当箇所をクリックする。


「お相手は藤井ユイさん。ご飯の約束、忘れてませんか? だって」


「なんで読み上げるんだあああああああああああああ」


「これ、デートのこと? 新くん説明してよ」



 最悪だ……なんてタイミングに送ってくるんだ……


 姉様に見られたからスルー出来ない。


 更にリスナーもこの事を知ってしまった。




 グッバイ日常。



 ほんじょー先生の次回作にご期待ください。





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